魏志天問 10 紹興本
以下の記事は、魏志倭人傳に関する素人考えの疑問を並べていくものです。
天問10は、
三國志「紹興本」は、なぜ、どのようにして刊行されたか
と言うものです。
素人考えでは、以下のように思っているのですが、筋が通らない憶測なのでしょうか。
南宋時代に、中国史上初めて、本(書籍)の出版(木版)事業が本格化したのには、歴史的背景があります。
長く続いた唐王朝が大規模な内乱で、中原が荒廃したあげくに、滅んだ後、分裂時代がしばらく続き、960年に建国した宋が全土統一したのです。
宋は、武より文を優先し、文化経済を重視した文治の国であり、新しく帝都とした現在の開封を中心に150年間にわたって繁栄しました。繁栄の成果の一端として、製紙技術の発明以来700年近くたって、潤沢で低価格となった「紙」と手工業の発展による印刷業の確立を受けて、木版による出版が実用化に到ったのです。
それまで、熟練写本工が長時間を費やして営々と写本していたものが、木版さえ起こせば、手工業的な運用とはいえ大量に書籍出版できることになり、哲学書、仏典を初め、各種高貴書の出版が始まりかけたのです。
しかし、このように繁栄した宋も、北方異民族との抗争で一方的に不利な立場に陥り、1125年には金軍による首都包囲、陥落で亡国しました。
現皇帝、前皇帝、を初めとして、継承権のある皇族全員の拉致、宮廷文物・宝物の持ち去り、など、宋帝国が土台ごと失われる事態となったのです。
継承権のある皇族の一名が辛うじて南遷して生き延び、引き続く、江南への金軍侵入で、全土を制圧されかねない危機があり、これを辛うじて凌いで北方に押し戻し、1127年江南の地で南宋を構築したものです。
かくして、中国は、またもや広範囲で国土が荒廃し、国家の基盤が損壊した後、ようやく政治体制の復興を達成したのが、南宋紹興年間と思われます。と言うものの、金との抗争は、30年に及んだ紹興年間を通じて外患となり、国内政治の不安定さと相まって、王朝としての威光は振るわなかったもののようです。
一方、民間を見ると、幸い、宋の盛時も、経済のかなりの部分が、長江(揚子江)と大運河の水運を生かして江南に展開されていたので、古来中原と呼んで中華の核心であった長安、洛陽、開封の新旧帝都を失っても、江南だけで活発な文化経済活動を進められたのです。
ここまで、字数を費やして、南宋の歴史背景をなぞったのは、紹興本の成立の背景と限界を探るためです。
三國志再刊事業は、江南の地に宋を再興した高宗(1127-1162)が、国威発揚のために、全力を尽くした国家再建事業の一つであったと思います。
北宋刊本「咸平本」(1002-1003)は、印刷刊行されたとはいえ少数部数であり、その大半は、中原各地に散在所蔵されていたと思われます。従って、これら咸平本刊本は、開封から持ち去られた宮廷書庫の蔵書刊本と共に、南宋の手の届かないものになっていたのでしょう。
従って、復刻しようにも、刊本全巻が揃わず、少なからぬ欠落部は、不本意ながら、良質の写本で補ったと思われるのです。そのような努力の果てに、その時点で最善と思われる三國志紹興本が刊行されたと思われます。
三國志は、古来、貴重書と位置づけられて、特に丁寧に写本継承されていて、北宋咸平本の版刻出版に際しては、念入りに、存在する各種写本の相互確認をしたはずです。そして、紹興本は、その時点で、最も咸平本に近く、従って、最も原本に近く維持されていたものと見るのが順当な見方ではないでしようか。
以上
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