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2014年5月26日 (月)

私の本棚 11 森浩一 倭人伝を読みなおす

 ちくま新書 859 2010/8発行

          私の見立て★★★☆☆        2014/05/26

 著者は、歴史学者の中にあって、現場、現物に広く接し、また、関連史料の原文に広く触れ、自分自身の思考で歴史を理解することを長年にわたって実践されたものです。従って、安易な受け売りの議論は登場しないので、安心して読み進めることができます。
 
 たとえば、本書の対馬に関する記述が名文であると評価しています。誠に慧眼ですが、現地事情に触れたことが、倭人伝の文章を深く味わうことができたのでしょう。
 
 特に、「良田」について語る時、中国語で「田」は、「田畑」を包含する言葉であるので、良田が乏しいというのは、地形に恵まれていないので、平坦な田畑が少ないと言うことであると、丁寧に示しています。
 
 倭人伝に触れた著作で、「良田」についてこの点を怠っていることが大変多いのですが、これは粗雑と言わざるを得ないのです。中には、この点を飛ばして、とにかく、対馬の交易について語っているのです。
 小生も、個人的には自明なので、ついつい「小論」で触れずに済ませてしまいましたが、よく考えると、倭人伝の中国語の読み下しを理解する際に落とし穴となっていることが多いので、念押ししておくべきだったと感じています。

 さて、著者は、本書では、「倭人伝」について、そうした書物があるわけではないという程度にとどめています。受け売りの「倭人条」説を書き連ねる向きに比べると、誠に賢明な筆致です。

 倭人伝の内容を語り、世評の高い「邪馬台国 近畿説」を論評すると、「近畿説」信奉者が、お仕着せの古代観に合わせて、原史料を読みこなしていることに触れざるを得ないのです。いわば、触らぬ神に祟り無しです。

 著者の実務に通じた見地から吟味すれば、「邪馬台国 近畿説」は、近畿に存在していた当該国が、筑紫に散在する国々を緊密に遠隔支配していたことを根幹とする議論であり、これが、時代背景を度外視した、超現実的な議論であることは、小論筆者がここまで折に触れて断じています。

 つまり、著者ほどの実務通が、そうした背景に気付いていなかったはずはないのですが、少なくとも、本書には、そうした議論は明示されていないように思います。

今となっては、著者が、三角縁神獣鏡国産説の推進にとどまって、それに続く自明の議論である「近畿説」廃嫡にまで至らなかった背景は不明となってしまいました。

 それ以外、著者の臨場感満載の議論は、触れているときりがないのですが、この本は、著者が、八十二歳の時に西日本新聞に連載した記事をまとめたものであり、当時、著者は、週3回通院する状態で、よくぞ、これだけのまとめができたものと感動しています。

 
 小生は、著者のまるまる二十年年下に当たるのですが、あと二十年近く、多少なりとも筋の通った考えを続けられるかどうか、自信のないところです。
 
以上

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