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2014年5月15日 (木)

私の本棚 1 佐原真 魏志倭人伝の考古学

 岩波現代文庫 2003年7月刊行

          私の見立て☆☆☆☆        2014/05/15
                 以外★★★☆☆

 本書は、国立歴史民俗博物館の発行したブックレット(1998年刊)を加筆編集したものです。
 編集に当たって、中国思想史、特に老荘思想・道教研究の研究者であった福永光司氏の見解を取り入れているということですが、共著にはなっていないものです。

 本書の真価は、倭人伝の文書批判ではなく、倭人伝記事を糸口に、書かれている倭国の風物と現在に至る考古学の成果を交錯させる民俗学の見方であり、豊富な物証とそれに対する深い分析をもとにした貴重な定見が見られます。
 学術的な著書として、この上ない業績であることは、言うまでも無いことです。

 以下、私論である魏志倭人伝解釈をもとに、瑕瑾を突かせていただいた個人的な批評を加えます。

 冒頭に、魏志倭人伝が通称であることのもったいぶった念押しに加えて、いくつかももったいぶった前振りがあります。

 続いて、福永光司氏の意見として、三国志南宋刊本の刊行された時代は、外敵侵入で首都陥落したため失われた史書、哲学書の復活、復刊を急いでいたため、正史の刊本といえども、誤写や誤記の多いものであり、三国志記事についても全幅の信を置くべきでないとの見解が書かれています。
 さすがに、知識豊富な権威者の意見として傾聴すべきかと思いますが、あくまで概論として南宋刊本に適用するものとしても、具体的に、正史たる三国志南宋刊本に適用できるかどうか、念入りな検証と批判が必要と思われます。

 たとえば、三國志刊本は、国家の事業として早々に紹興年間に刊行されたにもかかわらず、後を追うように紹凞年間に新規刊本が刊行の運びとなっており、そこには、良質な北宋刊本の入手によって、紹興本の瑕瑾が訂正されたとの背景がうかがわれ、従って、その内容に格別の信を置くだけの根拠が見られるのです。

 しかし、本書で、著者は福永光司氏の意見をそのまま本書全体の底流としていて、三國志紹凞本影印を掲載しながら、読み下し文に依拠し、さらに筆者主観の赴くままに読み替えていく史料軽視の方針を採ったものと思われます。

 先人の示すままに倭人伝への信頼を放棄した著者は、遺跡、遺物を資料として採用するのは当然として、奈良時代の「古事記」「日本書紀」「風土記」「万葉集」の記事を参照したと表明しているわけですが、これは、後世の古代国家確立後の記事と言う衣を四百年余り時代をずらして三世紀に当てはめる当代の気風に染まる危険性が感じられます。

 それは、倭人伝記事をもとに考察するという執筆姿勢とそぐわないもののように見えます。

 以上書き連ねたように、出発点である魏志倭人伝を、根拠が不確かな他人の意見に従って疑わしいとの先入観で扱ったため、闊達な議論が出来ていないところが散見されるのは、残念です。

 個人的な意見としては、卑弥呼が、年配の女性、果ては、老婆と限定しているのは賢明な見方ではないと思いますが、基調として邪馬台国の採用と並んで、自説に馴染むように資料解釈を撓めていく論法が目立つのです。

 著者の不得手な分野と思われる史料批判が、本書の価値を損なっているのでなければ幸いです。

以上

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