今日の躓き石 「今世紀最高のピアニスト」
常套句の安易な使い回しは、時として、滑稽で収まらないものがある。
最近の毎日新聞の文化欄コラムに、マルタ・アルゲリッチが、「今世紀最高のピアニストとも評される」と風評めいた書き方で紹介されていて、大きく躓いてしまった。
コラムニストも、ちょっと考えれば、常套句の不都合に気づいたはずである。「とも」と言うからには、他の言い回しも聞いているはずなのだが、よりによって、どこで目にしたのか、現時点では、分野、業界を問わず不適当と決まっている常套句を採用したのが、コラムニストの不幸の始まりである。
今世紀は、始まってまだ1/5も経っていないから、この時点で今世紀最高というのは、褒め言葉にも何もなっていない。もう70年くらい経って、今世紀の決算が見えてきた頃に言うべきものであるが、コラムニストはどうか知らないが、話題のピアニストも、小論筆者も、すでに老境にあるので、今世紀最高と呼ばれているかどうか、到底見届けることはできない勘定である。
ピアニストは、1941年生まれで1960年にレコードデビューして以来、20世紀だけで、40年の堂々たるキャリアを刻んでいる。14年経ってない21世紀の活躍を持って、21世紀のピアニストというのは、不釣り合いというものだろう。参考までに言うと、素人集団の書いたWikipedia記事では、「現在、世界のクラシック音楽界で最も高い評価を 受けているピアニストの一人である。」と妥当きわまる表現をとっている。コラムニストは、こちらから、学ぶべきであった。
別の常套句を転用するならば、「常套句は、無能な著作家の隠れ家である」とでも言うのだろうか。署名入りで記事を書くコラムニストは、文筆家、著作家に属する職業人である。隠れ家が、童話で言う、藁の家なのか、煉瓦の家なのか、隠れる前に確かめるくらいの分別は必要だろう。
それにしても、天下の毎日新聞の夕刊文化欄のコラムであるので、校正段階で駄目が出なかったのが、不審である。
当記事は、世間の一般的な風潮を諷するのが目的であり、やり玉に挙がった形の個人を攻撃するのが目的ではないので、記事は明示しない。当人が気づいて、執筆姿勢を改めていただければ、小論筆者にとって幸いである。
以上
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