さて、マーラー アダージェットの著作権が消滅した公有素材の利用で、思わぬ待ち伏せに遭った話の後続談である。(長文失礼)
YouTubeを介した「三社の申し立て」に対して、理を尽くして反論したのであるが、WMGが、申し立ての取り下げに同意しなかったので、ここに、再度問題提起するのである。
本件は、クラシック音楽音源の著作権について業界に蔓延している誤解に対して、多少なりとも改善が図られるきっかけとなれば幸いである。
クラシック音楽の大半については、まず、楽曲に対する著作権が消滅していることを確認いただきたい。グスタフ・マーラーは、比較的現代に近い世代であるが、それでも、1911年に死亡しているので、全作品について、著作権が消滅している。ということで、これを、ここだけの略語でPDM (Public Domain Music)と言うことにする。
ただし、PDMは、原則として楽譜を自由に利用できる、つまり、自由に演奏できると言うだけであって、出版され、市販されている楽譜は、出版物としての著作権があるので、PDMといえども、楽譜が自由に利用できるというわけではない。つまり、勝手に複製コピーして利用できない場合もあると言うことである。
それより大事なのは、PDMを演奏したとき、その音声に対してその時点での著作権、日本の法律で言う「著作隣接権」が発生するので、第三者が、勝手にその音声を利用できないこともあるのである。ただし、著作隣接権もいずれは消滅するものである。ということで、著作隣接権の消滅した演奏を、ここだけの略語でPDP (Public Domain Performance)と言うことにする。
いつ著作隣接権が消滅するのかは、各国の著作権に関する法律次第なので、国毎に異なり、その時点によって異なるものであるので、注意する必要がある。
ただし、大原則として、一旦、PDPとなったものが、その後の法律改定により、遡って、PDPでないもの(著作権の対象)になることはないのである。
さて、ここまで、復習した上で、今回の各社の申し立てを見ると、そのような考慮は、一切されていないことがわかる。要は、各社共に、自分が権利を主張したい音源をYouTubeに登録しておくだけで、YouTubeに、そのような大量の音源とアップロードされた動画の音声とを比較して、判定基準を超える一致点が発見されたら、動画作者に「申し立て」(重大な警告)を発する事が義務づけられているのである。
そのような「申し立て」は、「被申立人」である動画作者に対して、刑事告発に近い影響を与えるから、慎重な検証が必要であるが、根拠となる「ミレニアム著作権法」は、ネットワークの管理者に対して、そのような業務を行うことを強制しているため、根拠のない「申し立て」が多発するのである。
さて、今回、WMGなる正体不明の管理者が現れていたが、なぜ、どのように根拠で申し立てしているか不明だったので、申し立て3社に対する反論といっても、よく見知っているNaxosを対象にしたのである。このような反論を行うことにより、管理者が、自身の申し立てについて、反論に対する見解をまとめる際に、自身の音源の権利内容を確認できるので、自覚・反省して、取り下げることを期待したのである。少なくとも、Naxosは、山賊の類いではないと思ったのである。
そうして、最後に、WMGが残ったので、「確信犯」の正体をインターネット検索で確認すると、Warner Music Groupの略称らしい。ちゃんとした企業ならそれぐらい、ちゃんと自称して欲しいものである。
さて、それだけでは、従来Telefunken,Eratoなどのレーベルを主体としていたWMGが、何を根拠にしているのかわからなかったのだが、何と、当音源を1938年に録音、販売したHMV,後のEMIが、クラシック音楽分野の権利をWMGに販売していたのであった。
経緯紹介で参照していたEMIのリマスターCDの権利がWMGに移行しているものらしい。 (要は、関連権利一式が売却されたものらしいが、当事者からの説明がないので、本当はどうなっているのかわからない)
何で、万事に素人である一般人がここまで立ち入った調査しないといけないのか文句を言いつつ、ここで、当方の論点を確認すると、WMGが買い取った権利には、PDM,PDPに対する権利は含まれていないということである。両者の契約書にどう書かれていようと、契約書の言葉がどう読み取れようと、EMIがPDM,PDPに対する権利を持っていなかった以上、WMGはPDM,PDPに対する権利を購入していないと言うことである。
残るのは、EMIが、当音源を現代の流通に耐えるように整備して、レコードであれば、マスターテープに相当するものを製作し、カッティングマシンでマスタを作成し、という工業的な工程を経て、印刷物などを製作、添付した上で、LPレコードの形で発売した際に、新たに発生した「著作権」であるが、当方がEMIの発売したLPレコードないしはCDを購入し、それに付随した著作物を当方の動画に利用していたのならともかくとして、音声部分のみに対しては、事実上著作権は無いものと推定するのである。事実上というのは、LPレコードないしはCDの販売価格に比して、音声部分の僅かな改変によって発生した付加価値は、微少であり、権利の使用料を請求することが無意味なほど少額と見なされるものである。ちなみに、自動的、機械的な工程に対して、著作権は発生しないものである。
参考に言うと、当方の動画には、PDMであっても、PDPではない音源を紹介するものがあったが、その場合は、画像部分で、原盤として使用したLPレコードのジャケットやレーベルを掲示して出所を明記しているが、今回の場合は、そのようなものでない。
本論に戻ると、反論に明記したように、当方の手元には、EMIのCDは無い。ただし、Naxos, DuttonなどのCDがある。当方の知る限り、それぞれのリマスタリング方法に多少の違いがあるとしても、所詮、同一の原版から取り出した音源の雑音部分を取り除くなり、緩和したものであり、それぞれの特徴は、常人の感知できるものではなく、また、今回の複数管理者の登場で明らかなように、YouTubeの判定でも、各社の相互識別はできていないものである。
一体に、著作権とは、他者と異なる独自の創作を行ったことに対して与えられるものであり、今回の例のように、互いに識別不可能な著作物に対して、著作権は新たに発生していないものと考えるのである。
因みに、ここまで労力を費やして、このように自明、周知の事実を積み上げるだけであるにしろ、YouTubeを介して「申し立て」を受け、これに対する反論を書き上げるに付いての労力、心労は、一般的な動画作家には耐えがたいものと考える。側聞する限り、イベントなどで撮影した動画に、映り込み同様に入り込んだ音声のせいで、何の不都合もない動画を取り下げた被害者が結構いらっしゃるようである。
案ずるに、YouTubeを介して行われる「不当な」申し立ては、損害賠償の対象ではないかと考えるものである。
いかなるものであろうと、自身の不法な行為によって他人に損害を与えたものは、その損害を賠償しなければならない、というのが、大多数の法律より優先される万国共通の「法の精神」と考えるのである。
それとも、WMGは道義感も順法精神もない「ブラック」企業なのだろうか。
以上