今日の躓き石 「メンタル」の極み
2015/03/10
毎度おなじみの毎日新聞スポーツ欄ですが、今回朝刊の記事を題材として取り上げたのは、毎日新聞の責任と言いきれないものがあります。何しろ、今回は、共同通信の配信記事なので、中身は、そちらの責任と言うべきなのでしょうが、堂々と紙面に載せた以上、無関心ではいられないはずです。
それにしても、今回、テニスのデビスカップの対抗戦でカナダチームに勝てなかった事への論評は、どんな名選手が執筆したのか署名がないのでわかりませんが、非常に高い視点からの論難であり、まことに不思議です。報道機関は、いつからか、スーパー評論家になっていますが、今回の記事も相当なものです。
指摘は、トップ4に入る選手の偉業はあっても、一人だけでは対抗戦に勝てない、と当たり前の結論を掲げ、二人目の選手に「精神力」が足りなかったことを敗因として指摘しています。しかし、現実には、両チームの勝敗を分けたのは、ダブルスの勝敗であり、敗因をどこかに押しつける論法は、全国紙の報道から排して欲しいものですが、記者の論法を辿ると、日本チームの敗因は、ダブルスの負けとも言えるはずです。ダブルスが勝ちなら、シングルスで二勝した選手の功績が称えられていたはずです。
記事では、二人目の選手への非難に言葉数を費やしていて、まずは、「(相手の)強力サーブを気迫で押し返す姿勢は見られず」と断罪されているのですが、一方、エースの美点として、「追い込まれた場面で強靱なメンタルで踏みとどまった」、と賞賛しています。ここで書かれている「メンタル」が何なのか意味不明ですが、二人目の選手に対する論難からすると、気迫のことなのでしょうか。
つまり。両者の差は、「気迫」、「精神力」であると断じているようなのです。愚考するに、記者の眼力は、超能力の部類に見えます。記者が、選手の「姿勢」を見通したことを受け入れるとして、では、どんな「姿勢」が必要だったかは語られていません。高速で飛んでくるテニスボールを、ラケットで打ち返すのでなく「気迫」で「押し返す」方法があれば、この場で開示して頂きたいものです。これでは、まるで、劇画、漫画の世界を文字にしているように見えます。
当の記者は、折角、現場で実際の試合に臨んで、膨大な情報を受け止めているはずでする。報道の使命はまず第一に事実の報道であり、記者が自説を唱えるものではないと思うのです。
共同通信の編集姿勢については材料が少ないので、お説教はこの程度にとどめるが、毎日新聞ともなれば、報道に際しては、元々得られた情報を個人の狭量な見識で解釈して意味不明な論評に置き換えてしまわずに、生の情報をできるだけそのままで伝えて頂きたいものです。配信記事は編集で機なのでしょうが、毒消しにもっと健全な記事をすぐ近くに載せられなかったものかと思います。
それにしても、ここまで指摘したところによれば、事スポーツ界に限っても、「メンタル」という言葉の意味は、かなりバラツキがあるようです。ここでは、何か、スパイクか、ラケットか、武具のように見えます。
もともと、mentalという形容詞だけで後に何も続いていないと何のことかわからないのであり、そんな(いい加減な)言葉使いで何かを読者に伝えようとするのは、報道の使命をおこたる(横着という)ものではないかと考えます。
最後に、自明なことを伝えると、テニスに限らず、「勝負」というものは、大抵は、技術と戦略で、あらかた、勝ち負けの行方が決まってしまうものであり、そのような判断からして勝つべきものが「油断」や「過信」で自滅して負けることはあっても、「気迫」などで、負けるべきものが勝ち負けの行方を覆すことは、滅多に無いものです。要は、技量が相手に及ばなかったと見るものです。伝統的な「心技体」の心情を見直して欲しいものてす。
以上
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