今日の躓き石 名人の「実力を数値化」できるのか
2015/05/28
今回のネタは、毎日新聞大阪13版の社会面である。と言っても、将棋名人戦に関するものである。
上段部分の記事は、主催新聞社として順当な報道であり、堅実なものであるが、 そのあとに続く論説部分が、すんなり読めない語句がばらまかれていて、すんなり読み通せないのである。
こうした書き方については、以前も論評したので繰り返しになるが、しつこく批判を刻んでいくのである。
まず、国際チェス連盟などで採用されている「レーティング」方式と切り出しているが、将棋連盟棋士の場合は、諸般の棋戦で対戦が重ねられている場合が多く、計算式や諸係数が説明されていないレーティングが適切であるかどうか、大いに議論されているものと思う。いや、将棋界でそれなりに議論されたあげく、不適切であるとして採用されていないものと思うのである。
実力評価と言うならば、「名人」というのが、名人戦、順位戦という棋界最古の体制に於ける昨年名人戦以来の棋界第一人者という実力評価であり、挑戦者というのが、順位戦の最高峰であるA級棋士10人の1年間の総当たり戦に基づく「順位戦最強者」という実力評価である。
因みに、「毎日新聞」が主語になって次の文が展開しているが、名人戦、順位戦による実力評価という体制は、両主催紙が、多大な労力と経費を投じて維持している絶大な資産であり、毎日新聞が、このような記事を載せるというのは、自損行為ではないのだろうか。
この記事は、経営者の承認を経て公開していると言うことなのだろうか。
さて、いよいよ問題の下りに来るのだが、「過去5年に於ける両対局者の実力を公式戦成績を踏まえて数値化」というのは、何を言っているのか、何の意義があるのか、しどろもどろのように思える。「過去5年間を通じた両対局者の実力の数値評価」と表現を補充してみても、言葉の意味は通るが、文としては依然として意味不明である。
何よりも、まず、プロ棋士の実力を数値化することなどできるのだろうか。いや、プロ棋士の実力とは、何を言うのだろうか。この記事でも、何も語られていない。
次に、過去5年間のデータは、目下のタイトル戦の利用者の評価にどう反映されたと見ているのだろうか。少なくとも、ここまでの4局の勝敗の推移は、過去の「実力」と相関しているのだろうか。もし、相関しているのなら、別の時点で、詳細の論証を行って欲しいものである。両対局者の実力が数値化されたら、それは、他棋戦にも当然適用されるものであり、公開の影響は大きいのでは無いか。
いや、そのあとに、そこまでのレーティングという科学的らしいデータ解析を言いながら、ここからは、挑戦者の負け-勝ち-負け-負けで1勝3敗となった名人戦は、名人の名人位防衛で終わっているものばかりだという「ジンクス」があるという。不思議な言い方である。
常識的に考えても、そこまで4戦を7割5分の勝率で戦っていれば、続く対戦を3連敗する確率は、大変低いものであることは明らかである。単純計算で、1.5%程度に過ぎない。逆に言えば、このまま行くと、98.5%程度の確率で、タイトル防衛となる予想が成り立つ。
勝負の勢いという心理的なものを評価すると、かなり、逆転は起こりにくいものと、誰もが感じていると思うのである。
してみると、過去のタイトル戦の結果は、まことに順当なものであり、順当な結果を「ジンクス」と呼ぶのは、言葉の勘違い、誤用と思うのである。
総体的に、この部分の論説は、客観データを踏まえていると見せて、単なる憶測であり、しかも、「ジンクス」を見当違いの場で使用するなど、この場にふさわしくないものだと思うのである。
以上
追記
当記事は、日付の通り、名人戦第5局の開始以前に書き記したもので、第5局の勝敗を反映した修正は加えていない。単に、公開日時設定の間違いで、結果論めいた公開時期になっただけである。