« 私の本棚 番外 長野正孝 古代史の謎は「海路」で解ける 再掲 | トップページ | 私の本棚 28 完全図解 邪馬台国と卑弥呼 その8 末論 »

2015年6月17日 (水)

今日の躓き石 校閲部を校閲する?

                                     2015/06/17
 毎度ながら、毎日新聞大阪版の話であるが、まずは、毎度ながら、スポーツ欄でのサッカーナショナルチーム監督の談話で、「サッカー人生」という失言が書き出されている。軽率な言葉選びに、まずは引っかかるが、本人が日本語でしゃべっているわけではないので、言葉の選び方がお粗末なのは、翻訳者の責任である。と言っておく。

 それよりは、定例のくらしナビ面月一掲載の校閲部のコラム「字件ですよ」で、地の書き方で選手の「野球人生」と書き出しているのが、大変気がかりである。ここは、スポーツ欄記者の書きなぐり記事でなく、「言葉の守り人」の姿勢を世に知らせる場所である。言うならば、日本全国でお手本にしている所で、これはないよ、と思うのである。
 「**人生」と言う言い方は、スポーツ欄記者固有の悪弊かと思っていたら、すでに、「言葉の守り人」の感性まで汚染されているとしたら、嘆かわしいものである。

 言葉には、日常、どんどん使って、時には、踏んだり蹴ったりして、慣れ親しむ言葉もあれば、それこそ、人生の機微を語りたい時だけに使う、とっておきの言葉がある。はっきり言って、「人生」というとっておきの言葉を、普段着に下ろして、汗や食べこぼしにまみれさせたくないのである。

 元々、誰かが英語でBaseball Lifeと言ったとしても、それを日本語で「野球人生」と言い換えて良いかどうか、考えて欲しいのである。

 ちょっと場合は違うが、ノートパソコンの充電池の持続時間を、業界のかなりの企業が「バッテリー寿命」と翻訳していて、情けない思いをしたことがある。元々、米国企業が言葉遣いに無神経で、Battery Lifeと無造作に書いていたせいであるが、それに追随する方も、よくぞ追随したものである。

 言うまでもないが、充電池の容量を使い切って空にしても、充電すればもまた満タンになって復活する。
 いや、もっと大事な話がある。人間は悲しいかな限りある寿命を生きているが、ものは元々生命(Life)がないので寿命(Life)もないのである。

 これが、英語として当然の使い方であれば、アメリカ英語の伝統を守るべき知識人の権威も地に落ちたものであるが、アメリカ人皆がこうした業界用語の良い崩しに同意しているわけではない
 アメリカのように多様性を包含する社会でも、言葉選びに無頓着な種族が、間違った言葉遣いを拡散させていることに、多くの人たちが義憤を感じているのである。アメリカにも、言葉の規範はあるのだ。

 と言うような、まねしてはならない事例を横に置くと、ここに言う「人生」は、何とも情けない言い方である。単に、自分の選手生活、監督生活といった、個人のキャリアを言うものに過ぎない。選手時代、監督時代も、普通の個人としての生き方があったはずである。

 「人生」は、その人にとって一度きりのかけがえものであり、産まれたとき、と言うより、物心ついたときから最期まで続くものであり、「**人生」と手軽に小分けにして、「穿き崩す」ものではない。 

 大事な言葉を「普段着」にしたら、大事な話をしたいとき、どうやって話すのだろうか。

 因みに、少し踏み込んで「野球人生」という言葉を新入り言葉と認めたとしたら、野球人生初、と言うのが、賢い言い方かどうかである。
 それこそ、小学校の試合でホームランを打ったことを野球人生初といい、プロとしての初ホームランを、野球人生二度目というのは、どんなものか。あるいは、高校時代に、甲子園でホームランを打ったことを野球人生初というものか。

 プロ野球の公式戦は、技術的にも、選手としての受け止め方から見ても、それ以前の全ての野球経験と段違いのものと考えるのである。それにしても、選手本人は、こうした言い方をどう思うのかである。

 言うなら、昔から言い慣わしている「プロ初」で良いのであり、言葉の言い崩しを付け足す必要はないと思うのである。

 「野球人生」という言葉は、用例案などを慎重審査の上、断固「却下」である。

 ハリルホッジ監督の「サッカー人生」との言い方も、自身の一流クラブやナショナルチームでのプロ選手として闘って以来の経験だけを言っているのであって、まさか、子供時代の路地裏サッカーから思い起こしているのではないだろう。

 読者に事実を伝えるという報道の本分に照らしても、問題の多い、軽率な言い方と思うのである。

 毎日新聞校閲部ほどの見識があれば、素人の感じる情けなさを共感して頂けると思うのである。

以上

 追記  「字件ですよ」には、読者の「ご意見、ご感想」の連絡先が書かれているが、それでは、「ご意見、ご感想」と持ち上げているものの、連絡してしまうと当方が意見を押しつけ回答を強要しているようになるので、他の記事同様、言いっ放しの道を選んでいるのである。あるいは、「クレーマー」との定評を受けるのが怖いのかも知れない。
 別の言い方をすれば、ここまでの記事全部に、都度きっちりと回答が返ってきたら、当方も、更に回答せざるを得ない。論争と言わないまでも、意見交換会になったとしたら、当方は、心身ともに忙殺されるると言うことで、万事、言いっ放しでないと、身が保たない。

« 私の本棚 番外 長野正孝 古代史の謎は「海路」で解ける 再掲 | トップページ | 私の本棚 28 完全図解 邪馬台国と卑弥呼 その8 末論 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

今日の躓き石」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 今日の躓き石 校閲部を校閲する?:

« 私の本棚 番外 長野正孝 古代史の謎は「海路」で解ける 再掲 | トップページ | 私の本棚 28 完全図解 邪馬台国と卑弥呼 その8 末論 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2025年1月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 資料倉庫
    主として、古代史関係資料の書庫です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ