今日の躓き石 カタカナ言葉の誘惑
2015/10/25
題材は、宅配購読している毎日新聞の大阪13版スポーツ欄の署名入り囲み記事であるが、カタカナ言葉の軽率な取り扱いは、別に個人的な問題ではないので、たまたまやり玉に挙がった人が不運と言える。
とは言え、「自由席」と題されたコラムで、「舌を巻いた」、「恐れ入った」と一人称記事を書けるほどの実力者(これは、ほめ言葉である)なので、ここに何か書かれたからと言って、萎縮することなどないと思うので、こうして遠慮なく言い募るのである。
ここで気になったのは、「ユーティリティープレーヤー」なるカタカナ言葉である。これは、名匠監督の発言の引用であり、しかも、発言自体で「複数のポジションを守れる」と前振りしているので、この長いカタカナ言葉13文字の意味はうっすらと理解できるように思える。
しかし、その直下で、「二塁を守った」選手は「一塁も守れるユーティリティーな選手」と形容されている。「ユーティリティー」というカタカナ言葉が、何とか意味を推定できる「ユーティリティープレーヤー」と言う(実質上の)単語を外れて一人歩きして、意味がぼやけている。
素人考えで気が引けるのだが、一塁手というポジションは、内野手で唯一左投げでも務まる守備位置であり、比較的負担の軽い守備位置であることから、ここを守れるからと言って、特筆すべきものではないように感じる。
また、二塁手が外野を守れるというのは、関西地区ではなじみの深い現象であり、ちょっと前からの阪神球団なら平野選手や大和選手のような見なれた例がある。
それ以外にも、長年捕手専任だった選手が、急遽コンバートされて三塁を守るというのは、大したことだと思う。
こうした事例と比較すると、今回のレギュラー左翼手の欠場対応に対して、スポーツ専門記者としては、ちょっと感激しすぎ(これは、ほめ言葉ではない)ではないかと思う。
はて、話が余計な方に流れた。ここで、不満を唱えたいのは、「ユーティリティープレーヤー」を「ユーティリティーな選手」と言い換えていることである。しかし、「ユーティリティー」は形容詞ではないので、文法から言っても違反である。また、単に「ユーティリティー」と言ったときの意味は、いかようにもとれて、解釈が不安定である。文章の大家であるプロの新聞記者としては、軽率ではなかろうか。
いや、ここまで躓き石を掘り起こす気になったのは、同じページの巨人選手の引退記事で、別の記者が複数の守備位置を「どこでもこなす高い守備力」と讃えていたからである。「高い守備力」だけ取り出すと、僅か5文字であるが、明解に意味を伝えている。寸鉄の如く的確であり、学ぶべき言葉遣いである。「ユーティリティー」とカタカナ8文字を費やして、しかも、意味が伝わりにくいのと大違いである。
どうか、安直にカタカナ言葉に寄りかかるのではなく、誰にでもわかる言葉で書いて、事実を的確に報道するという基本を忘れと欲しくないものである。
こうやって絞り出した苦言が「糠に釘」でなければ幸いである。
以上
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