著作権侵害の非親告主義について
2015/10/24
最近、TPPの影響で、著作権侵害が、著作権所有者以外の第三者による告発が可能となる非親告主義が採用されると報道されている。
*非登録制の陥穽
しかし、よく考えてみると、これは大変不安定な制度である。少なくとも、著作権が登録制でない国では、危険な考え方である。
登録制の場合、国の登録データベースを確認すれば、誰のどのような作品が著作物として登録されているか判断できるので、正確な告発が可能であるが、登録を必要としない国では、告発を受けてその内容を確認しない限り、何が著作物であるか、知りようがない場合が多いのである。
まして、著作権は、同じ知的財産権と言っても、国内法では登録不要とされていて、特許などと異なり、登録を求めた出願に対して審査がなされるものではないので、果たして、著作権を主張している著作物が、正当なものかわからないのである。
極端な話、当の著作物がそれ以前の著作の著作権を侵害しているかどうか、確認できないのである。
あるいは、著作物のある部分が著作権の消滅している、あるいは、著作権の主張されない引用であっても、どの部分が著作物となっているか、わからないものである。
非親告制を認めるなら、対象となる著作物は、しかるべき公的団体に登録され、公開データベースに登録された著作物に限定するようにして頂きたい。
*著作隣接権の混沌
次に問題となるのは、国内法で言う著作隣接権の問題である。音楽関係で顕著なのだが、元々の作曲が古くて著作権がなくても、その曲を演奏するとその都度「著作隣接権」が発生するのである。
例えば、どこかの交響楽団が、J. S. バッハの作品を演奏会したら、曲自体の著作権は消滅しているから誰にも使用料(ロイヤルティ)を払う必要はないが、演奏に対して著作隣接権が発生する。つまり、この演奏の録音に対して著作隣接権が発生する。本来、著作隣接権の了解なしには利用できないのである。
しかし、元々同じ楽譜を、同様の訓練を受けた音楽家が演奏するから、同じ楽譜に基づく異なった演奏は、音声だけ聞いても区別できないことが多い。
これを確実に区別、同定するには、各演奏毎に、識別特徴を明記して、データベス登録するのであろうか。例えば、どこそこに席が聞こえるとか、誰かがミスしたとかの特徴である。著作隣接権侵害の告発の際には、こうした具体的な演奏のデータを照合しないと、著作隣接権侵害の立証の仕様が無いのである。
さて、今後国内法が整備されて、著作隣接権侵害が非親告制となったとして、以上のような厳密な処理なしに、司法機関が客観的な立証がされたと確認できる検出方法は存在するのだろうか。
例えば、とあるオーケストラが、欧米の一流オーケストラの既存の録音を参考にして、極力同じ速度、強弱で演奏したとして、音声データの比較たげで両者を区別できるのだろうか。
あるいは、先端技術を駆使して、過去の「名演奏」を分析再構成して、区別できないほどに複製再現したものに、再現著作物は不法な副生物になるのか、あるいは、新たな著作隣接権が生まれるのだろうか。いずれかの演奏の複製がどちらの著作物の複製であるか、判定できるのだろうか。大いに、疑問が湧くところである。
*結語
後半、議論が迷走して当人が余談と自認しているが、いずれにしろ、大所高所からの議論に、素人にもわかるような、著作権固有の事情の実際的な検討が抜けていることに苦慮しているのである。
すでにYouTubeでは、電子処理によって、曲の類似点を発見して、同一演奏だと速断するようシステムを導入しているが、類似点や一致点より、相違点の方が多くても、強引に同一音源だと決めつけるようである。現実に、誤判定が頻発している。それでも実施しているのは、YouTubeのような運営管理団体は、疑わしきは指摘し、公開を停止せよ、それを怠れば、直ちに、運営管理団体を重罪で告発する、との法律(米国法)が存在しているからである。
著作権侵害の告発が非親告制となると、同様に、運営管理団体が、告発の義務を背負わされるのではないかと危惧する。米国法で摘発を受ける可能性のある団体は、他国で、米国法の適用外であっても、米国法に沿った行動を取らざるを得なくなる可能性がある、と指摘しておくものである。これは、国家主権の侵害とも取られかねないが、あくまで、「団体」が自己責任で行う告発であるので、非親告制での告発を認めた国は、そのような内政干渉を阻止することは困難になるのではないか、と危惧するのである。
思うに、このような制度が導入されるのは、某大国が、自国の映画産業が所有する「不滅の名作」を(実質上)未来永劫収入源として確保することが主眼なのだから、受益者負担の原則から言うと、そうした特定の著作物を保護する制度としては、言うならば「ブレミアム著作物」として(それにふさわしい高額登録料を徴収して)登録し、堂々と特別扱いすれば良いのである。
一私人の個人的な意見としては、米国以外の諸国は、そのような極端な見方に加勢して、無造作に国内法制を拡大すべきではないと思うのである。
以上
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