2015/12/23
今回の話題は、毎日新聞朝刊大阪第13版スポーツ欄の連載囲み記事「世界への扉 ラグビーW杯と花園」の第2回目である。
当ブログで散発的に続いている「フットボールにおけるフィジカル」の追求である。特に、ラグビーフットボールが的である。前回までに批判を書いてしまったので、成り行き上書かざるを得ないというものでもある。
*見出しのなぞ
見出しには、「体力重視 躍進のカギ」とある。
成功例に挙げられている前回の優勝校は、直前に三連覇している強豪校であり、毎年メンバーが入れ替わる高校チームとして、むしろ異例なほど抜きん出てトップの力を持つチームである。
それほどの強豪校チームに「躍進」されては、他チームはたまるまいと思うのだが、強豪校には、「勝って当然」、「勝つのが宿命」の気風があって、評価の基準が違うのだろうか。
また、「躍進」の原因が「体力重視」といわれても、素人読者は、首をかしげるのである。他チームは、体力軽視していたために負けたのだろうか。見出しから、大きく躓くのである。ということで、見出しに誘われて、記事に視線を移すのである。
*敗因分析のなぞ
記事によれば、同校(チーム)は、「技術」で他校(チーム)を圧倒して三連覇したが、一度「体の大きな相手の圧力に屈した」敗北から「接点で完敗した。フィジカルに差があった」との教訓を得て、指導方針が変わったのだという。
わざわざ体の大きな(デカい)という以上、「フィジカル」とは、体形と圧力(Pressure)のことらしい。Physical Property, Physical Performance, Physical Contactのことだろうか。
それにしても、体形、特に身長とか骨格とかは、鍛えようがないと思うのだが、どうしたものか。また、圧力というと、前進力、押しの強さということになるが、それまで鍛えていなかったのだろうか。
*取り組みのなぞ
といいながら、実際は、特に他校を上回る筋力トレーニングは、やっていないという。なら、2年間の取り組みのどこが、体力重視、体力強化になったというのか、肝心の言葉がないので、読者にはわからない。
*目標と成果のなぞ
少なくとも、現代の高校スポーツ指導であるから、ただ、メニューを設定して練習させているだけでなく、身長、体重、胸囲などのサイズ面の数値がどうなったとか、握力、背筋力、ジャンプ力、反射反応の数値がどうなったとか、運動負荷をかけたときの呼吸、心拍、血糖値、尿酸値、などの数値がどうなったとか、客観的に認められる数値データで成果が確認できたから、監督は指導方針に確信をもって大会に挑んだと思うのだが、ちらとも漏らさないし、記者が探ろうともしていないのは不思議である。
いや、慎重に読み取れば、まだ成長を続けている高校生にとって、(全身の成長を阻害する)長時間の練習を避け、また、(練習集中で食欲低下)体重低下に陥りがちな食餌改善(Diet)に炭水化物摂取を促し、何より、(練習から来る過度の緊張による)睡眠不足を避ける、という指導が大事だと言われているように思うのだが、監督は、あえて口をつぐんでいるように思う。それとも、「寝る子は育つ」は、自明だということなのか。
*確信のなぞ
監督の言葉は、確信に満ちていると記者によって報道されているが、読者はその場で監督の表情や口調を体感していないので、記事の文字面に頼るしか感じ取りようがない。
「体ができれば、悩みの7割は解決する」と謎めいている。だれの悩みが解決するのだろうか。いやもそもそも、スポーツにおける「悩み」とは、何なのだろうか。読者には、不明瞭なのである。
かねがね言っているように、当事者の言葉を解読して、読者に理解できるように伝えるのが報道の本分と思うのだが、当記事のこの部分は、監督の真意が読み取れず、趣旨不明である。
*ワールドクラスの敗因分析
続く段落では、高校ラグビーを離れて、ワールドクラスの試合の「敗因」の分析結果として、「基本的なスキルや体力不足が原因で起きるミス」と明記されている。
もちろん、記事の展開の都合でここに書かれていないのだろうが、勝敗は、敗者が凡ミス(Unforced error)を犯したものだけでなく、相手のスキルや体力が卓越していてベストの対応をしてもミスになってしまった、ということも多数あるだろう。そうでなければ、ラグビーというゲームが、凡ミスで敗北をもたらしたものがひたすら「後悔」するだけのつまらないゲームになってしまうのである。
*スキルと技術
因みに、スキルというのは、適度な言葉であり、前段で、「低い姿勢から突き上げるタックル」のような、これができて初めて一人前というような基本的(Elementary)なプレーを「技術」と大層な言葉で祭り上げているのに対して、言葉の選び方で「勝つ」言い方である。
*まとめ
ということで、以下の記事は、よくわからない情報をつけ足した後、「体つくりのノウハウ」が、「これまで以上に」不可欠と賢そうに締めているが、ちゃんと締まっていない気がする。
*不可欠のなぞ
不可欠とは、欠けたら負けるという意味であり、すでに最上級/究極の言葉なので、この言葉に重ねて「これまで以上に」というのは、子供じみた冗語であり、文として趣旨不明である。 これさえ達成すれば負けないというものでもなく、また、相手も達成していなければ五分と五分、という意味でも、不可欠などではなく、最上級のものですらないといえる。大人になってほしいものである。
*ノウハウのなぞ
そして、自身の言葉で続けずに「ノウハウ」(非公開の有用情報)というおまじないに逃げているのは、重ねて趣旨不明であり、困ったものである。
「ノウハウ」とは、具体的に、Aの方法でやればうまくいくという教えであるとともに、Bの方法でやれば失敗するという教えでもある。時として、指導の報酬付きで開示するものであり、公開されないことが多い。(公開されたら、ノウハウとは呼べない)
AとB、それぞれの方法自体は、秘密でも何度もないことが多い。方法と結果を的確に結び付けているのが、(錯誤のロスを回避できる)貴重な教えである。
つまり、何も知らずにBの方法を採用して、試行錯誤に陥るのは世間では珍しくないのだが、監督でいえば、自身の失敗は選手の失敗であり、自身の知識不足が多くの支援者に不幸を招くので、謙虚に「ノウハウ」の力を借りねばならないのである。
それにしても、有効な「ノウハウ」は、どこの誰に教えを請えばいいのだろうか。それがわからなければ、この課題は解決しないのである。
今回は、ラグビー界における「フィジカル」の用例を学べると思ったのだが、失望に終わったようである。
以上