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2015年12月25日 (金)

今日の躓き石 神戸市長の経済効果

                                2015/12/25
 今回は、毎日新聞朝刊大阪第13版のオピニオン面の記事であるが、ここで毎日新聞の報道姿勢をどうこう言うのではない。

 「補助廃止 フルートコン」と銘打った「論ステーション」の神戸市長の意見に関する批判である。
 いや、当方は、神戸市民どころか、兵庫県民でもないのだが、意見を言う権利はあると思うので、以下批判させていただくのである。

 まず、神戸市長の意見として問題なのは、事の是非を経済効果で云々していることである。
 いや、神戸市の財政に最大の責任のある首長として、経済効果を表に出すのは結構だが、肝心なのは、本件の経済効果に関して、数値化された評価を提示できないのに、補助金支出の是非を決断していることである。
 家庭の議論として、神戸「市当局の評価の結果、「約5000万円」の補助金支出に対して本件の経済効果が、1000万円であるから、支出すべきでない」というのなら、ある種の合理的な意見として聞くことはできるが、数値評価が示せないのに、経済効果を論拠に上げるのは合理的ではない。単に、抵抗勢力が手薄い、組みしやすい分野に、霞が関育ちのコストカッターの矛先を向けたのではないか。

 ちなみに、インターネットで報道されている市民参画推進局文化交流部の発表によれば、神戸「市民福祉の向上への関連が薄いこと、市民還元の度合いが少ないこと、また本市の厳しい財政状況」が補助金支出中止判断の三大要件として提示されているが、傍目に納得できるのは、最後の神戸市財政の逼迫という要因だけである。
 神戸「市民福祉の向上への関連」の濃い、薄いは、どんな指標による言い分なのか、なぜ、冒頭に言い立てるのか、わからない。神戸「市民福祉」は、どのような側面から言い立てているのかわからない。言っている意味が分からないから、賛否の示しようがない。
 「市民還元の度合いが少ない」というのは、直接的、即効の「経済効果」を言うのだろうが神戸市民への還元は、直接的、即効の「経済効果」しか評価できないのだろうか、「経済効果」指標の有効性はどう評価すべきなのか。

 神戸市長は、(神戸市の)「知名度」には、さまざまの理由があると称しているが、それぞれに数値評価はされているのだろうか。いや、地域の商業活動に寄与しているものは、「経済効果」として報道されているが、それは、表面的、一時的なものであって、それだけを追い求めるのは、「金権主義」「拝金主義」とされているのではないか。

 大体が、「出場者は予選が終われば神戸市を去」ることが論拠とされているのも、よくわからない。当コンクールは、本選を他会場で行うのだろうか。多額の補助金を支出して、単に予選会場を引き受けているだけであれば、知名度が低いのも無理ないところである。
 また、出場者たちが、遅かれ早かれ神戸市を去るのは、演奏機会(定職)がないからであろう。別に、神戸市を嫌って立ち去っているわけではない。

 それは、高校野球で、出場選手の大半が、大会の後甲子園球場を去るのと同じでも何の不思議もない。兵庫県にプロ球団があるから、一部選手が回帰するが、大半が他地域で活動するために去るのであり、こうしたことは、別に本件に限ったものではなく、また、不思議なことではない。

 当ページに登場しているコンクール卒業者である奏者は、世界有数の高名な奏者であり、その経歴を見れば、神戸市の名が上がっているはずであるし。当人たちも、自身の経歴の中の重要なエポックとみているはずである。神戸市にとって、金銭価値を問えない(priceless)光栄なことではないのだろうか。 

 要は、ここで挙げられている論点の多くは、神戸市財政の逼迫という巨大な難点以外は、もっともらしい言葉を連ねているが裏付けの乏しい虚辞であり、筋の通らない議論であり、神戸市長が権限の根拠としている市民感情の本質と密着していないと思われる。

 仮に「経済効果」論を受け入れるとしても、本件の「経済効果」は、一時的な経費の出費との対比でなく、開対の成果を市民の資産として評価すべきではないか。30年間営々と築き上げた資産、市民の宝物、を、現時点での判断で廃棄していいものかどうか。
 後日再開するとしたら、単年度に5000万円を費やしても、同様の「資産」は回復できないのである。

 また、ついでながら、市民の認知度が低いという点を、神戸市長が補助金廃止の論拠とするのは、不審としか言いようがない。
 30年間にわたり補助金を支出して開催を支援してきたのに、市民の認知が低いのは、神戸市の責任が大というべきと考える。市民から預かった補助金の使途を明確にPRして、生きた支出にするのは、神戸市長をいただく市当局の責務ではなかったのか。歴代神戸市長には、自身が実質的な主催者であるという当事者意識が欠けていたのではないか。

 思うに、神戸市は、近畿の主要都市である京阪神の三都市の中で、新しい文化を取り込み花開く境地をもたらす点で、国内随一の名声を自負して来たように思う。ここに挙げられている「経済効果」は、名声すら金銭評価のだしにする「拝金主義」ではないかと憂うものである。

 それにしても、「芸術文化は王侯貴族が趣味として応援する形で発展した」というのは、どこの国のどの時代の話か、面妖である。

 いま問われているのは、日本の国の市民文化である。日本では、少なくとも、関西では、文化は、商人を中心とした市民層の支援で発展したのである。何か、基本的なところで勘違いしているようである。ちなみに、日本で「王侯貴族」とは、だれを指しているのか、面妖である。
 欧州諸国でも、ギリシャ、ローマのの時代から市民による文化活動は盛んであったと思うし、中世の時代に市民文化が後退したとしても、たぶん、フランス革命後のナポレオンの欧州制覇を契機として市民階級の経済力高揚とともに文化活動が開花し、提言されているような古典的支援環境は大きく変質したものと思う。
 それにしても、神戸市長は、自身を太古の「王侯貴族」に擬しているのだろうか。
 この部分は、ずいぶん軽率な言い方であると思う。

 ついでながら、神戸市長の配偶者が国立音大(国立大学ではなく、国立「くにたち」市に設立され、現在立川市に存在する私学)の准教授であることが示されているが、本件の議論に関係ない個人情報と思われる。神戸市長の意思で経歴の一部として掲載したのであろうが、その姿勢に疑念を覚えるのである。

 以上は、よそ者の勝手な意見であるから、神戸市民に広く同意してもらえるとは思わないが、神戸市長が、こうした形で論説を展開することが、神戸市の知名度に寄与しているとすると疑問である。こうしてみると神戸市長の「経済効果」は、好意的に評価することが困難である。

以上

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