今日の躓き石 NHKの誤訳汚染 mentally and physically
2016/02/29
今日は、朝から、スキージャンプ女子W杯中継(再放送)であるが、二回目が開始する前に、目下、故障で参加できずにいる、W杯初代チャンピオンのインタビューが放送された。
今年後半にならないと、ジャンプ練習ができないと言うことで、完全復活は来年かとも思われる。残念な話であるが、順調な回復を祈るものである。
さて、その際、目下のチャンピオンについて意見を求められて、mentally and physically strongとコメントしていたのだが、字幕では、「メンタルもフィジカルも」強いと誤訳されていたのは、NHKBS1の放送として、大変情けないものがある。
ちゃんとした英語教育を受けた大人のアメリカ人が、日本式のカタカナ語を喋るはずはないのだが、無頓着な翻訳者にかかってカタカナ語患者にされてしまい、一般視聴者に、アメリカ人なのに意味の通らないカタカナ言葉を喋ったと理解されては、気の毒であるし、逆に、アメリカ人が使うちゃんとした言葉と誤解されて、カタカナ語汚染が広がるのも、また弊害が絶大である。これは、多重化した「誤訳」である。
それにしても、physically strongは、元々英語になかったはずだが、スポーツジャーナリズムが、mentally strongなる、珍妙な言い回しをはやらせてしまったために、strongの前に物理的、身体的という意味のphysicallyを蛇足する羽目になっている。気のせいか、選手の語りが一瞬言いよどんだようでもあった。多分、嫌いな言い方なのだろう。
因みに、mentally strongは、勝ち気、負けず嫌いの一面はあるにしろ、目下のチャンピオンが談話で触れているような、自身の技術面の不出来を冷静に観察して、速やかに修復する、したたか、かつ、知的な心の持ち方を言うものではないだろうか。確かに、strongと言ってもいいのだろうが、形のない、数値化できないものを体の強さと対比させるのは、本来無理ではないか。
そして、日本語に戻るが、「メンタルもフィジカルも」というのは、競技、分野によって、大きく意味が異なるし、個人差も大きい。スポーツジャーナリズム全体として、言葉の本来の意味がわかっていないジャーナリストが、その場その場でいい散らかしているように思う。
と言うことで、NHKは、公共放送の任務を負う報道機関であるから、発言者の意図が視聴者に伝わらない報道姿勢は、改めるべきだろう。
適訳は、「心も体も強い」というところだろうが、「心」が強いというのはどんなことなのか、問い返すべきではなかったろうか。記者が、自身の競技観で勝手に納得して対話をせき止めてしまわず、視聴者に代わって問い返して、一流選手が、どのような心の働きを「強い」というのか、「一流の競技観」を知りたかったものである。
以前、カーリング女子チームの外国選手評として、まず、「からだがデカい」、「すごく気が強い」、という指摘があって、続いて、「困難な形勢では、一段と闘志が湧いてきて形勢逆転のプレーを編み出し」、それが、「どんなに困難なものであっても、ずばり通してくる、素晴らしい技術を持っている」、と絶賛していた。
そんな相手のいるチームになぜ勝てたのかと聞くと、相手は、複数の選択肢があるとき、失敗の可能性が高くても、高得点の得られる、技術的に高度で困難なショットがあれば、安全、確実に得点するショットで安全勝ちを狙うのではなく、なく、リスクのある方を選ぶと知っていたから、そういう形になるように進めたところ、日本チームにとって幸運なことに、スーパーショットが逸れて、勝つことができたという談話であった。
してみると、カーリングに於ける強さというのは、局面を冷静に先読みし、相手の性格も配慮して、勝つ可能性のある形を作るところにあるらしいと言うことが見えてくる。カーリングは、メンタル(知的)スポーツだという気がするのである。
どちらも、NHKBS番組なのだが、今回は、選手と視聴者の間で、言葉の流れをかき乱す"discommunicater”になっていたのは、大変な残念と言いたいところである。
できの悪い、見当違いのカタカナ語は、是非とも、「撲滅」して欲しいものである。
以上
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