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2016年3月24日 (木)

毎日新聞 歴史の鍵穴 新展開 イネ・コメの比較言語学

          私の見立て★☆☆☆☆        2016/03/23

 ここまで、毎月当方を悩ませいていた、毎日新聞夕刊「文化」面(2016/03/23)の「歴史の鍵穴」(佐々木泰造 専門編集委員筆)が、当月新展開を見せて、ほっとしたところである。
 なにしろ、ここ数ヶ月の唐連載記事の迷走ぶりは、どう言って指摘すればいいのか(批判に耳を貸してもらえるのか)、大変悩まされたのだが、取り敢えず、緊迫した状態は去ったようである。

「イネ・コメの比較言語学」の開花
 とは言え、佐々木氏の執筆方針は余り変わらないようで、今回は、イネ・コメの比較言語学と題して、とある言語学者の所論を、提言者の提示に沿って紹介しているもののようであった。
 前回までは、歴史背景を無視したとんでもない古代「超科学」と日本書紀への無批判な傾倒で書かれていて、とても、自説として消化した紹介とは見えなかったのだが、今回は、多少客観的な紹介に装われているようである。

 そのため、今回は、淡々と指摘するに留めるに留めたかったのだが、やはり、現代視点の無造作な適用が提示されているので、早計と批判されるのは覚悟で、一言ご意見申し上げたい。

所説の図式化の是非
 「松本さん」と敬称で呼ばれるかたの推定する5000年前ごろの言語分布として、現代ならではの精緻なアジア地図上に、PCのディスプレイ上で易々と作図したと思われる美しい楕円型が沢山描かれているが、どういうつもりで、こうした楕円を「お絵かき」したのか、大変不思議である。

 今日のように交通手段が大変整備された時代であっても、地図上に、単純な楕円で何かの分布を描くのは、大変大胆な前提を含んでいるように思うのである。
 描かれた地域内での、地勢、つまり、土地の高低などの要素が影響して、また、現代では国境や交通路の開発状況に影響されて、このようにきれいな楕円形では、とてもくくれないと思うのである。

   5000年前であれば、政治的な制約はほとんどないとしても、物理的な移動、搬送の困難さが厳しい以上、当時の現地情勢は、このような図式化が可能なほど、単純、明解なものではなかったと思うのである。

寒冷地域の水田稲作広域普及
 卑近なところでは、「A:太平洋岸北方郡」と書かれた地域は、実際は、環日本海地域であり、太平洋沿岸と呼び得ないと思うのである。
 また、無造作に、北海道のほぼ全域と樺太南端、ソビエト沿海州が囲まれているが、こうした寒冷地が温暖な九州、四国と一律に囲まれているのは、どうにも、解釈に苦しむ。
 いや、文化風俗的には、大局的に同一視できる程度に類似していて、一律に扱えるのかも知れないがこれほど気温、日照が異なる地域で、同一種のイネが、同一農業手法、つまり、水田稲作技法で栽培され、主食として依存されていたと言うことなのだろうか。5000年前の寒冷地水田稲作の広汎な普及という大胆な仮説には疑問が残る。

考古学成果の裏付け
 いくら言語学の所説であっても、稲作考古学と言うべき分野の学術的裏付けがなければ、つまり、水田遺跡やコメ粒遺物の発掘、遺伝子分析がなければ、先月まで続いていた、妄想紛いの古代超科学論と同様に、ディスプレイ上に描いたきれいな図形のもたらす現代人の空想に過ぎないのである。

健全な批判精神
 顕学の氏に子供相手めいた「意見」は僭越だと承知しているが、失礼は承知で、是非とも、ご一考いただきたいものである。
 鵜のような鳥は、よく、獲物を丸呑みにして、人の嘲笑を浴びるが、鳥には、獲物を噛み砕く歯もなければ、獲物を味わう舌も無いので、獲物の丸呑みが最善の摂食法なのである。
 人は、歯も舌もあるし、消化器の造りが違うので、鳥の真似はできない。

 世人が佐々木氏に望むのは、比類無き豊富な見識を駆使して、あまた持ち込まれる多種多様な新説を咀嚼賞味して、そのなかから、取り扱うに足りるものを厳選し、ご自身の言葉で読者に説き聞かせてくれることではないかと思う。

 専門編集委員が、ディスプレイ上の楕円に惚れ込んで健全な批判精神をなくしていないことを期待して、来月以降の記事掲載を待ちたい。

以上

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