私の本棚 55 季刊邪馬台國129号 高島忠平「東アジアと倭の政治」 1/4
季刊 邪馬台国 129号 2016年5月
「東アジアと倭の政治」 高島忠平
私の見立て★★★☆☆ かなり無理 2016/06/18 確認2020/12/25
本稿は講演録なので、書評扱いするのは不公平かもしれないが、高名な論者であり、原稿なしに話されたとも思えないので、書評並みに批判させていただく。
最初に全般について感想を述べさせていただくと、「弱点」のある九州説の有力な論客として、自信を持った、平静な話しぶりであり、近畿説が、無理を重ねて押し出して、「欠けている遺物は掘れば出る」といる論法に比べて、無理の少ない、筋の通った講演である点に感服する次第である。
以下、話の運びを整えるための口調なのか、ご当人の思い込みなのか、つじつまの合わない点を指摘させていただく。
*交易と朝貢
九州北岸の遺跡から、朝鮮半島由来の文物が発掘されている、したがって、この地域と朝鮮半島との間に交流があったとみるのは自然な推論として、その背景として、朝鮮半島に対して朝貢貿易を行ったからだともとれる言いぶりはいただけない。当時、朝鮮半島の南部は、統一国家の形成されていない村落国家分立の事態であったので、朝貢のしようがないのである。
逆に、半島小国は、まとまった連携をしていなかったようで、韓伝には三韓がそれぞれの構成小国名を連ねて書かれているものの、それぞれの韓国を束ねる国主の存在については、伝説の辰王以外見当たらない。従って、三韓諸小国が、倭国を天下の中心と仰いで朝貢してくるはずはなく、こちら向きにも、朝貢はないと思われる。
いや、元に返って、「朝貢貿易」なる言葉は、まるで時代錯誤であり、三世紀時点には存在しなかった概念/用語とも思える。そのような場違いな言葉で古代を語るのは、それこそ、大きな勘違いと主網のだが、詳しく、識者のご意見を伺いたいと思うのである。
*倭人圏の広がり
むしろ、倭人伝に示唆されているように、半島南部と九州北岸は、「倭人」の居住圏として一体であって、域内で物が移動していたのではないかと思うものである。
*唐突な漢式鏡導入
このような形式不明の交流の話で朝貢の話を引き出しておいて、いきなり、関連の不確かな九州北部で漢式鏡が出土しているという話に移行し、併せて、中国では、鏡が王権の象徴であって、一-三世紀を通じて珍重されていたとしているが、それにしては、出土した鏡の数が多く、作業仮説としてお伺いするしても、根拠が不確かではないかと思われる。
孟子、墨子、荘子と、無造作に著名な論客を連ねているが、それぞれ、具体的な参照ができていないので、論評は避けるが、高島氏の講演にしては、足元の固まっていない話し方と思える。
未完
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