毎日新聞 歴史の鍵穴 謎の五世紀河内王宮
大阪城跡の下層
古代王宮が埋もれた可能性 =専門編集委員・佐々木泰造
私の見立て☆☆☆☆☆ 2016/08/25
今回は、毎日新聞2016/8/24日夕刊の文化面記事、月一連載の「歴史の鍵穴」に対する批判である。
今回は、穏当な書き方で有るが、良く見ると大変大胆な主張が発表されているので検証したいができない、あえていうなら、出所不明への不満である。雑ぱくで恐縮だが、市井の諸賢の叡知を広く顕彰する記事として、どこがまずかったか気づいて頂ければ、幸いである。
*五世紀河内宮仮説
今回の記事は、大阪市教委の学芸員の意見を伝えて頂いているようだが、是は、学芸員の地方公務員としての公務の成果を、毎日新聞社独占と言うことで、この紙面で成果を提供頂いているのだろうか。
ご当人の詳しい論旨が不明なのだが、燦然としているのは、五世紀、つまり、前期難波宮の二世紀前にこの附近に王宮(と政府組織)があったとする主張であり、まことに大胆である。いつここに都を来させて、いつ、ここから都を移し出したのか、資料を拝見したいものである。
80年度の調査で検出された柱穴の上の地層から、古代土器片が検出されたという微妙な意見であり、五世紀後半とおもわれる須恵器の破片が出土しているとしているが、どの程度の数量出土したのか不明だから論評できない。
「柱穴」がいつ掘られたか確証があるのだろうか。また、「柱穴」が示す通り何らかの建物があったと仮定して、それが「王宮」の一部であったと断定的に主張するのは、あまりに大胆ではないか。以下の記事でも、五世紀にこの附近に王宮があったという記録については触れられていない。
できれば、そのような画期的発表の基資料を見たいものだが、出所不明では、如何ともし難い。
*七世紀のお話
七世紀のお話として、図解されている難波宮遺蹟の中枢部の一部が、北北東という半端な方向に500㍍程度離れてあったというのも、不思議な話である。
記事の末尾を見ると、学芸員は、ここに王宮と言うより内裏があったのではないかと想定しているようだが、復元模型で示されているような難波宮が堂々とあるのに、天皇の寝泊まりは別の場所というのは、なんとも信じがたい。
*公開データ利用のモラル
今回の説明図は、「写真は国土地理院のウェブサイトより」とされているが、URLもなければ、整理番号もない。白黒でサイズが小さい上に、撮影時期不明、縮尺不明、方角不明。(国土地理院が不親切なのではない)
説明がないので、どこが本丸やらどこが二の丸やらわからないし、追加記入した、白線や破線枠も、よく見えない。
記事筆者は、現地事情を承知しているし、見ているのはカラーで大画面だから、良い説明図と思われたのだろうが、夕刊紙面を見ている読者にはちんぷんかんぷんである。
「近辺」の「法円坂遺跡」が描かれていないのも不満である。
ということで、今回の記事も、一般人たる読者に画期的な新説を発表する方法として、ほめられたものではないと感じるのである。
この地区の発掘ができないのは、特別史跡の保護のためと言うより、予算不足が最大の原因だろうから、世論の支持を願って、このようにリークして、予算獲得を狙っているのだろうが、ちょっと、このプレゼンテーションでは無理であろう。
ちなみに、記事前半で、「織田信長と対立して1580年に焼失した(中略)本願寺」と無造作に書き飛ばしていて、これでは、比叡山を焼き討ちした信長が、同様に石山本願寺を焼き払ったと取られそうだが、そのような因果関係はないと思う。
中立な書き方として、以下のようにした方が良いと思う。
「一六世紀後半、織田信長と対立した(中略)本願寺(1580年和議開城後焼失)」
全体に、学術的な発表の記事としては、大変不出来であるが、記者氏は、大先輩の足跡を見て書いているのだろうか。学ぶ相手を間違えているように見えるのである。
以上
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