今日の躓き石 メンタルは最高の言い訳か リオ五輪サッカー報道
20016/08/12
今回の題材は、毎日新聞大阪朝刊13版スポーツ面のリオオリンピックの男子サッカー1次リーグ敗退の回顧記事である。
*誤記・誤報
「個の力 メンタル 世界と差」と意味不明な小見出しである。
メンタル面と書くべき所を手抜きしている。「メンタル」などという名詞はないので、言葉のプロの渾身の仕事として、無様である。
また、これでは、個の力=メンタルと読めないこともないし、わけのわからない一つか二つの何かで世界と差があっても、それがどう勝敗に影響したのかもわからない。何のための見出しなのかと不審である。
続く記事は、「1勝1敗1分けで1次リーグを2位通過したコロンビア」と堂々と書き出されていて、一瞬、勝敗表を見て、寝ぼけ眼をこすり、顔を洗い直したが、どう見てもコロンビアは、1勝2引き分けである。
いきなり不正確な書き出し、一大誤報になっている記事では、1次リーグの全貌を回顧する、いわば、締めの記事であるのに、事態が捉えられず困ったものである。
最終戦の結果を見て書き出す戦評記事ではなく、事前に構想の時間がとれた筈なのに、粗雑な書き出しで、無様である。
*自明をなぞる書き出し
予選リーグで4チーム総当たりの上位2位が勝ち進むという設定は別に珍しくなく、初戦の1敗がとてつもなく重いのは自明であるシ、同一頁でたっぷり書かれているから、別に蒸し返して念押ししなくてもわかっている、いわば、衆知、自明のことを言い立てて、貴重な字数を空費して記事が始まる。
*お手盛りの「反省」
選手との対話で、なぜ初戦に勝てなかったかと記者が問いかけるのだが、いきなり、敗因追究は、「個の力」の違い(つまり、個々の選手が力不足だった?)のか「メンタル面の問題」(力は上回っていたが、自滅した?)のかとの二択で問いかけ、選手は、両方あったと答えている。何とも、意味不明、趣旨不明だった。
*無能な記者の最後の隠れ家 カタカナ言葉
特に、その時その時の都合の良い言い訳になる「メンタル」に、この記者が逃げ込んでいるのは、何とも、字数の無駄である。読者に意図が伝わらないで、報道の役が果たせていると思っているのだろうか。
*読者の期待
反省とは、勝ち進めなかったことの問題点を発見し、改善するための第一歩であるが、二つの要因は、どちらも、初戦に負けたことに対する意味不明の言い訳になっている。読者の知りたいのは、どこが悪かったのか、どうして改善するのかというものであり、いきなり、記者の独断で、読者に意味不明な二択にされては、不満である。
*選手の逃げ口上誘発
そして、取り上げられた選手の答えは、当然ながら、両方あったと思う、と無難な言い訳で終わっている。
意味のはっきりしない問いかけで困惑したが、記者の機嫌を損ねないように、調子を合わせたのだろうか。問いかけた選手が何人か知らないが、「守備陣の集中力不足」とか「チームとして守り抜く組織力が足りなかった」とか、普通の、読者が理解できる回答はなかったのかと思う。
*「身体能力」の言い訳
続いて、記者は、得意の「身体能力」の差を持ち出して、守備が破られても当然だと言いたいようである。選手は、先に挙げた敗因認識は口にしていないが、二戦目を勝てなかった、引き分けにしか出来なかったこともあわせて、一次リーグ敗退の原因と捉えていて、的確に状況を把握しているので安心する。
*想定外をカバーする想定の拡張
ただし、「世界と差」と記者の言葉遣いを共有しているようで、この点は、もったいない。日本チームと色々違いはあるだろうが、日本チームの個々の選手が、こうしたチームと同じに成れるはずはないから、想定外の瞬間に飛び出してくる個の突破力を想定して、時には、二対一,三対一,の形にしてでも、守備を破らせないように備えるしかないように、素人は思うのである。
*監督に反省なし
そうした前振りの後、監督談話が出て来るが、記者が問いかけた(と思われる)「個の力」の不足、メンタル面の弱さではないかとの質問に回答がない。
この世代(個々の問題ではない?)の「ストロング(強み)」と文法外しのカタカナ語で受け止め、普通、このようなときは、監督の指導力不足が問われると思うのだが、「反省」が無いから、次に繋がらない。とすると、この監督には、負けても、「もったいない」で済ませる「メンタル面」の強さが備わっているのだろうか。
言葉が乱れて取り留めなくなっているのは、監督の動揺のせいなのか、取り乱して泣いていたのか、読者には、この部分の談話の意味がとれない。なぜ、聞き直すなどしなかったのだろうか。
世界の場で経験を重ねたベテランの技と見える「共同」配信の監督談話は、うまくまとめている。特に、相手チーム監督の談話は、余計な言い訳なしに明解である。
囲み記事と本記事は同じ署名であるが、本記事は適度にメリハリを付けて、事態の流れを浮かび上がらせている戦評になっていて大違いである。
因みに、本記事で、選手は予選敗退したのは「もったいない」では済まないと、むしろ大局を睨んでいて冷静である。
カタカナ語への安易な逃げ込みは、監督の言い分、言い逃れではなく、記者の独断のようだが、いらぬ当てこすりをするような雰囲気が湧いてくる書きぶりである。
*報道の特権を無駄遣い
記者は、折角、仕事で、つまり、海外出張手当までもらってオリンピックの場にいて、監督、選手に、時には無遠慮に問いかけ、回答させる絶大な特権があるのだから、(諸々の税金や新聞購読料を負担して選手を応援している)読者の聞きたい(であろう)ことをきっちり聞いてきっちりと回答を得て、適確に報道して欲しいものである。
初戦敗戦の時点で、1次リーグ敗退はある程度避けられないと想定され、二戦目を勝てなかった時点で、その可能性が一段と高まった成り行きだから、監督、選手への問いかけを丁寧に準備できたはずである。いや、準備しすぎ、絞り込みすぎたのかも知れない。因みに、「すぎ」は、ほめているのではない。
*囲み記事総評
結局、囲み記事の見出しは、ざわざわ騒がしいだけで、記事全体の趣旨になっていないが、記事全体の取り組み姿勢、報道の姿勢に疑問があるので、忙しい読者は、見出しだけ見て、記事自体は読み飛ばすのがよいかも知れない。
それにしても、この囲み記事は、男子サッカーに関する報道の総括記事の位置付けであり、格段の重みを期待されているから、この不出来は、とにかく「もったいない」。
当ブログの一連の「躓き石」記事は、基本的に過度な個人攻撃にならないように気をつけているのだが、今回は、世界に冠たるオリンピック競技の報道であり、選ばれて出張している毎日新聞記者に求められるのは、選手に負けない技量と努力だと思うのである。この際、メダリストの報道を望んで、叱責しているのである。
以上
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