« 私の本棚 歴史読本 2014年7月号(5)特集 謎の女王 卑弥呼の正体 | トップページ | 今日の躓き石 言葉のもてなし-ゴルフ界 »

2016年9月18日 (日)

私の本棚 季刊「邪馬台国」 130号 時事古論 第4回

 再論詳説・洛陽で発見された「三角縁神獣鏡」 連載(1)
                                      安本美典
          私の見立て★★☆☆☆                2016/09/18        

 最初にお断りしておくが、本ブログ記事は、安本氏の論説全体の主旨についてとやかく言おうというものではない。枝葉の部分で、不適当と思われる発言があるので、指摘したいというものである。

*名画の再現-複製画
 今回の記事の末尾で、中国に実在する油画村について、中国に於ける偽物造りの議論の中でさらっと紹介されているので、否定的な印象を期待しているように感じてしまうのだが、名画の複製品(レプリカ)の販売は、中国美術界の周辺で成立している、堂々たるビジネス形態であり、褒めるべきであっても、非難すべきものではないのである。無名の画家にとって、貴重な収入源であろうし、よほど名声を博しない限り、複製品販売の収入で喰っているのだろう。

 例えば、ゴッホの「ひまわり」は、特定の作品の本物は世界に一枚しかないし、売りに出たとしても買うには莫大な費用がかかる。仮に、十分な資金があって買うことができたとしたら、どこかの金庫室にしまい込むしかない。

 これが複製品であれば、それこそバーゲンの時期を狙えば1万円としないものだし、その程度の値段であれば、汚しても怖くないから、自宅の部屋の壁に吊して、日々名画そのものに親しむ気分になれる。

 実際、当ブログ記事筆者の書斎(ぼろ屋の中の6畳間の和室)には、ゴッホの「ひまわり」の複製品(レブリカ)が架かっている。念のため言うと、このレプリカは、原画の写真を、大型プリンターでキャンバス地に印刷したものでなく、画家が、実際に、キャンバスの上に絵筆で描いた複製画であるから、絵の具の盛り上がりや筆運びがわかるし、署名入りでもある。と言って、ゴッホの筆運びは、さほど緻密ではないから、おそらく2―3時間で描けたと思うのである。そう思えば、複製品の値段はそこそこである。もう一つ念のために言うと、ゴッホの描いた絵画は、すでに著作権が消滅しているので、複製して販売しても、知的財産権の侵害にはならない。

 概して言えば、欧米の美術館は、画学生が、館内で展示品の模写をするのを認めている。
 と言って、別に当ブログ記事の筆者は、自身で画家を気取っているわけでもない、まして、これを本物として売り出すことなど考えていない。ただ、気分として、ゴッホの画を見ていたい気分になったとき、その程度の資金があったと言うことである。

 続いて、本記事は特に区切りも無しに、「贋作」村の話に続けるから、偽物造りと関係ない複製画(レプリカ)が、偽物造りの類いと誤解されそうで危ういのである。

*書聖王羲之の模倣
 「贋作」村の話の後に、王羲之の書の模倣が出回っていると紹介されているが、偽物造りと関係ない話である。
 書聖と呼ばれる王羲之の真筆は手に入らないとされているのは、衆知も良いところである。中国唐王朝の皇帝が、最後に残った王羲之の真筆を遺言で墓に埋めろと指示したので、いつの日か発掘されて、地上に持ち出されない限り、だれも見ることはできないのである。
 そもそも、王羲之の真筆は、唐時代に既に貴重であったから、いろいろな技法で複製することが普通であり、そのためには、王羲之と同じ筆、墨、紙を使用し、王羲之と同じ筆の運びをすることで、殆ど見分けのつかない状態で再現する試みも幾度となくなされたし、別の技法として、王羲之の真筆の下に用紙を敷いて、文字の要所要所に針穴を打って、敷いた用紙の針穴の作る輪郭線の中を極めて細い筆で緻密に埋めて再現する複製技術もあったとのことである。

 それ以外にも、中国で一流の書家を目指す無数の子供達は、王羲之の書の複製品を臨書して、王羲之と同じ書を書くことを人生の究極の目標としているのである。
 このようにして、王羲之の書の「複製」は、それこそ山のように書かれていて、中には、指摘されているように「時代錯誤」の書まであるが、どこにも、本物と称して売ろうとするものはいないのである。この話も、偽物造りと関係ない話である。

*複製品(レプリカ)の意義
 安本氏ほどの知性の持ち主が、犯罪行為である偽物造りと正常な商行為である複製品(レプリカ)造りが、全く異なるものであることは、素人の指摘がなくても承知の筈であるが、この記事全体が、両者を一緒くたに紹介して、複製品(レプリカ)造りを含めて「犯罪」と主張しようとしていると受け取られるのではないかと危惧するのである。

 ついでに言うなら、中国を「コピー大国」と呼ぶのは、主として、各種電気・機械製品の模倣、特に、特許や意匠、商標、ノウハウの盗用を言うのであり、又、近年で言えば、PCアプリの複製販売、日本の漫画、アニメの無断翻訳販売などの違法行為を指すのであって、今回取り上げられた、美術品の複製や骨董の偽造とは、別次元のように思う。いや、同じ国民性から出ていると言われたらそれまでだが、かなり異質の事項であることに変わりは無い。

 今回の記事は、そういうことで、安本氏の論説の行きすぎと思われる難点に関して率直に指摘させて戴くものである。

以上

« 私の本棚 歴史読本 2014年7月号(5)特集 謎の女王 卑弥呼の正体 | トップページ | 今日の躓き石 言葉のもてなし-ゴルフ界 »

歴史人物談義」カテゴリの記事

私の本棚」カテゴリの記事

倭人伝の散歩道稿」カテゴリの記事

季刊 邪馬台国」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 私の本棚 季刊「邪馬台国」 130号 時事古論 第4回:

« 私の本棚 歴史読本 2014年7月号(5)特集 謎の女王 卑弥呼の正体 | トップページ | 今日の躓き石 言葉のもてなし-ゴルフ界 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 資料倉庫
    主として、古代史関係資料の書庫です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ