私の本棚 歴史読本 2014年7月号(4)特集 謎の女王 卑弥呼の正体
2016/09/18
株式会社 KADOKAWA
承前
*時代錯誤となる用語
余談ながら、当代論者の例に漏れず、記事のあちこちに、古代史論に不似合いな言葉遣いが散見されるのは、感心しない。
「王に選ばれた卑弥呼の能力」と銘打った段落で、「卑弥呼に対するイメージ」なる意味不明な書き出しであるが、まず出て来るのは、卑弥呼の容貌評であるのは、不適当な言い方であろう。女性をいきなり容貌で評価するのは、今日、感心しないとされている。
まして、卑弥呼が、年若いか、年寄りかも、議論が分かれているのである。また、審美眼の差異もある。卑弥呼は、茶髪、碧眼、高い鼻だったのかどうか。そんな議論は、するべきではないのである。余談であるが、世界帝国である大唐を壊滅させる原因となった傾城の美女とされている楊貴妃も、現代日本では評価の低いぽっちゃり体型であったとの記録もある。いや、余談である。
この「イメージ」というカタカナ語は、筆者の勝手な言い回しで撓められていて、段落末尾で、「具体的にイメージする」と目的語も主語も不明確な、崩れた文章となっている。読者に訳のわからない捨て台詞が投げだされている。どうも、漠然とした印象と思われる名詞の「イメージ」を動詞扱いにしただけで、意味不明なのだが、形容詞/副詞として「具体的」というのはどういう意図で言われているのか、理解困難なのである。
結末部分で、意思疎通ができなくなっては、読者は困惑するのである。
結局、古代史に関する議論で、現代語、特に「カタカナ語」を言い崩してまで援用するのは、記事筆者の本来の使命である、著者と読者の意思疎通を著者が一方的に拒否し、肝心の議論を混濁させる時代錯誤であり、古代史論者としての記事筆者に対する信頼性を損なわせるものだと感じるのである。
参考資料
「正史宋元版の研究」 汲古書院 尾崎康 1988年
「翰苑」 太宰府天満宮文化研究所 昭和五十二年
太平御覧 四夷部三·東夷三 (中國哲學書電子化計劃)
http://ctext.org/taiping-yulan/782/zh
梁書 卷五十四 列傳第四十八 諸夷 倭
以上
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