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2016年11月20日 (日)

今日の躓き石 毎日新聞テニス記事 二態

                         2016/11/20
 今回の題材は、まずは、19日付毎日新聞夕刊大阪3版のスポーツ面に掲載されたテニス記事である。
 見出しは、日本選手が「突然崩れ逆転●」となっていて、見るからに、選手が自滅した、情けない試合だったとの印象を与えようとしている。

 戦評も、「突然の乱調で暗転した」と開始している。更に、「29本のミスを重ねフルセットで今後に不安を残す」と酷評しているのは、唐突で、心外である。その後にも、「ミスの連鎖」と咎めている。「ミス」は、Unforced errorのことだろうが、この数字自体だけ言い立てても、別に何も語っては居ないのではないか。当たり前の話だが、ミスしない選手はいないのである。そして、ミスは連発するものなのである。
 第3セットは、3-6であり、これはほぼ互角の勝負と見える。どこが、フルセットで不安を残すのか、書かれていない。
 談話も、かなり支離滅裂に引用されていて、「メンタル的に攻め」るのは、どんな攻め方なのか、「メンタル的に難しい」とは、何が、どう「難しい」のか、「事実不可能」なのか、対策がわかれば易しいのか、読者には混乱した感じしか伝わらない。
 それは、選手と読者の間に入った記者が、意図的に、選手の意図が伝わらないようにしたもののように感じる。このような言葉遣いは、事実かも知れないが、当然、意味が通らないカタカナことばでごまかそうとする談話に対しては、読者に伝わるようなことばになるまで問い返すべきではないかと思うのである。

 それにしても、非難に近い書きぶりの後、二日前の激闘の疲労は言い訳にしなかった「言及しなかった」という報道は淡々としていて不思議である。こうした、つまらない言い訳はしないという姿勢と引用されている談話は、繋がらないのである。

 この夕刊記事は、ここで負けたものの、リーグを勝ち抜き、優勝を目指している選手に浴びせる声援とは思えないのである。
 記者は、選手と違って勝ち負けのない場にいるし、一般読者の立ち入れない選手の身辺で質問できる特権を持っているのだから、テレビ観戦の一般人が画面に叱責を浴びせるのと同じような書きぶりには賛成できない
のである。

 当ブログは、主として、「メンタル」なる奇怪なカタカナ語に対して批判を続けているのだが、ここまでの批判は、書名こそないが、特定の記者の報道姿勢の個人攻撃になるのを懸念して、一度は公開を控えたものである。

 さて、続いてみたのは、毎日新聞朝刊大阪13版のスポーツ面である。

 見出しは、上位シード崖っぷち、つまり、この後頑張れよという前向きの声援である。
 引用されている選手談話で、敗因の分析は、「(第1セットは取ったものの、第2セットから)相手のサーブが良くなって、簡単にミスをしなくなってきた」のに対して、適切に対応できなかったことと見ているようである。気楽に見ている読者の視点で、端的に言えば、前の試合で大敵に善戦したので、下位には負けないだろう、と言う、微妙な楽観が作用していたのかなと思うし、第1セットを取って試合開始前で既にリーグ勝ち抜きが決まっていることが意識に上って、微妙に緩んだとも考えられるが、そんなつまらないことは言わないのである。

 記者は、リーグ戦勝ち抜きだけでは、上位シードが危ういことを、読者に理解できるように噛み砕いていて、一方、選手には緊張感を築き直すことを求めていて、まことに賢明な書きぶりである。

 最後に、前日の記事が「メンタル的に難しい」と日本語になっていない引用で読者を困惑されていたのに対し、今日の記事は「精神的には難しい」と、まだ意味の通じないのだが、それにしても慎重な言葉遣いである。

 要は、負けてもいじけず、ここまで勝ってきた自信を武器に難敵に挑みたい、と言うのは簡単だが、誰だって、負けが続くと気分が挫けるのである。「がんばれ」と声援されても、頑張れるだけ頑張ってこれだから、と言いつつ、頑張ろうとしか言えないのである。別に今に始まったものではない。カタカナ語でごまかすことも要らない。難題には、直面して真っ向から取り組むしかないのである。

 細かいようだが、夕刊記事の「奮起を期した」という書き方は意図不明である。
 「奮起」は自分自身の精神的な動きなので、正しくは「奮起した」と言うものであり、「奮起を期した」とは、「頑張りたいと思います」、「奮起したいと思います」と言うに過ぎない。これは、何とも、苛正しい、意気地ない態度に見える。これに対して、今日の記事は、「気持ちを奮い立たせた」と選手の決意をきっちり伝えている。

 総じて、夕刊記事は誤報と言うわけではないが、全国紙の誌面を飾るには未熟なものであり、選手を傷つけ、読者を憤慨させるものであったが、朝刊記事は全国紙の誌面にふさわしい風格の記事であり、それは、記者の視点が適切であり、その視点から、豊富な「表現の引き出し」から適切な言葉遣いが選ばれていたことを示している。

 最後に補足すると、今回の二記事は、共に共同通信の配信記事であり、おそらく、担当記者がそれぞれ異なっていたものだろうが、夕刊記事を配信した上で、あえて、朝刊で重複する内容を「正しい視点、正しい言葉遣いで」言い直したのは、共同通信の矜持を思わせるものである。
 これまで、毎日新聞自身の記事で、夕刊記事と同様に不適切なものがあっても、何の回復努力もされていないのと好対照である。共同通信は、配信した記事を読み返し、必要であれば言い直すが、毎日新聞は読み返さず書きっぱなし、と決めつけるべきではないのだろうが、色々感じさせられたのである。

 いや、えらそうなことを言っても、当方は、新聞社のオーナーでもなんでもない。単なる一読者である。一個人として、自身の見識を書き残しているに過ぎない。別に、世評を高めようと思っているわけではないし、反発されても何も影響がないので、遠慮せずに率直に書くのである。

以上

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