« 倭人伝考 番外 漢書地理志考 倭国と珠崖 似てるが違う話 1/3 | トップページ | 倭人伝考 番外 漢書地理志考 倭国と珠崖 似てるが違う話 3/3 »

2016年12月26日 (月)

倭人伝考 番外 漢書地理志考 倭国と珠崖 似てるが違う話 2/3

                     2016/12/26  

 考察や余談を続けている。

 地理志下:   
 自合浦徐聞南入海得大州東西南北方千里武帝元封元年略以為儋耳珠崖郡民皆服布如單被穿中央為貫頭男子耕農種禾稻紵麻女子桑蠶織績亡馬與虎民有五畜山多麈嗷兵則矛盾刀木弓弩竹矢或骨為鏃自初為郡縣吏卒中國人多侵陵之故率數歲壹反元帝時遂罷棄之

風俗概観
 住民は、皆、一枚の長い布の中央に穴をあけて貫頭衣にして、風通しよく着ている。男性は、専ら農耕に勤しんでいる。

 海南島は、海島であっても住民の漁労はしていないし、広大な丘陵、山岳地帯があっても、狩猟はしていないことになる。また、広州の近傍にありながら、海上交易もしていないことになる。
 気候を再確認すると、亜熱帯の多雨気候と言っても、風通しの良い服装でいれば耐えられるようであり、酷暑ではないようである。
 古来、漢帝国帝都長安のある関中は、中原として尊重されながら、気温が低く、また、雨が少ないために水利が不自由であり、後年、食糧自給が困難となる運命にある。これと比べれば、海南島は、食料の自給自足が可能であり、食の悩みのない豊饒の地のようである。

 食料としての粟や稲に加え、繊維を取るための紵麻(カラムシ)を栽培している。女性は、桑で蚕を育てて絹布を織る。
 と言うことは、折角の絹布を島内消費するだけなのだろうか。もったいない話である。

 馬は飼っていない。南方とは言え、この島には虎がいないので、住民は、野獣の心配なしに五畜(牛、羊、豚、ニワトリ、狗)の食用家畜を飼っている。山には、野生の鹿が多い。兵の武装としては、矛と盾、あるいは、刀に加えて、飛び道具として木製の弓や弩に骨鏃をつけた竹矢を備えている。
 
山中に鹿がうようよしていても、狩りをしている気配がないのである。
 武器をみると、刀剣以外には、金属兵器を使っていないようである。
 と言うことは、郡新設以前には、島内の内乱は無かったのだろうと言うことである。これに対して、郡兵の武装は、漢制に基づく強力なものであり、例えば、矢には鉄鏃を備えていたであろう。と言うことは、住民が郡に反抗したときは、徒手空拳に近い軽武装で戦ったのだろうか。

 今日の姿から想像もつかないが、秦漢時代の海南島は、鉄や銅のような鉱物資源を産出しなかったようだし、現在は、北岸の海港が良港となっていても、当時は、広州などの本土との交易も、特に見られないのである。
 因みに、地理志の次段は、「漢之譯使」が、海南島を起点として、現在のベトナム沿岸からマレー半島、さらにはインドネシア方面と思われる目的地への「船行」月数が書かれているが、順次訪問したとしても、正味で30カ月はかかっているので、途中に風待ちなどが入れば、三,四年かかりそうである。正確な報告なのか、誇張されているのか、読者には知るすべはないのである。
 次いでなから、この際確認すると、「船行」は、大変珍しい言い方、孤立した用例であり、地理志のこの部分以外では、魏晋南北朝以前の書籍全体を検索しても、魏志倭人伝で、「又有裸國、黑齒國復在其東南,船行一年可至」と書かれているのがヒットするぐらいである。これもなた、魏晋時代に孤立した用例であるが、あるいは、漢書地理志の影響かも知れないと感じたのである。

 それにしても、貪欲な漢帝国がなぜ貴重な土地、帝国領土を手放したのか不可解ではある。

未完

« 倭人伝考 番外 漢書地理志考 倭国と珠崖 似てるが違う話 1/3 | トップページ | 倭人伝考 番外 漢書地理志考 倭国と珠崖 似てるが違う話 3/3 »

歴史人物談義」カテゴリの記事

倭人伝の散歩道稿」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 倭人伝考 番外 漢書地理志考 倭国と珠崖 似てるが違う話 1/3 | トップページ | 倭人伝考 番外 漢書地理志考 倭国と珠崖 似てるが違う話 3/3 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 資料倉庫
    主として、古代史関係資料の書庫です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ