今日の躓き石 陳腐な表現 「ハードル」
2017/01/22
今回の題材は、どこの誰がどうしたという話ではない。世にはびこる陳腐な(誤)表現を歎いているのである。
「ハードル」が上がったというのは、前途にある邪魔者を克服するのが一段と困難になったという意味のようだが、随分珍妙な比喩である。
陸上競技のトラック種目で、走者がコース上の邪魔者に進路を阻まれていると見たのだろうが、実際は、ハードルに走者の足がかかって遅れることはあるが、ハードルで止まってしまうことは無い(はずである)。なぜなら、ハードルが越せなければ倒して通れるのである。別に、ルール違反でもなんでもない。ただ、飛び越えるのに比べて、大変遅くなるだけである。
つまり、陸上競技で、ハードルは走者を止めるためにあるのではない。走者は、走力に加えて、いくつかのハードルをうまく飛び越えて短時間で走り抜ける技術を競うのである。また、ハードルの高さは決まっていて、越されたからといって、高くすることはない。
「ハードル」競技に対する誤解を広めないようにと、陸連から抗議がないのも、困ったものである。
おそらく、最初に言い出した人が、聞きかじりで、誤解して唱えた「比喩」なのだろうが、その生かじりの言葉が、生かじりの積み重ねで蔓延しているのを歎くのである。言い出した当人も、後に失言を悔いたと思いたい。
陸上競技から正しく比喩を引くのであれば、「バー」と言うべきだろう。高跳競技の「バー」は、なんとしても競技者に越されまいとする邪魔者であり、越されたら越せなくなるまで高くして越せなくなった所で競技終了である。「バー」は究極の勝者である。
というものの、陸上競技で「バー」が高くなるのは、競技者の向上の反映であり、向上したと認められたから、それだけ、厳しい試練を与えているのである。時には、そういう見方も必要ではないかと思うのである。
英語でバーの意味は沢山あるが、ここでは、行き止まりのしるしの横棒標識である。飲み屋のことではない。法律用語で"Complete Bar”というのは、例外なしの全面禁止の意味である。寺院の公開(Public)部分の端の低いところに竹の横棒をおいているのも、「立ち入りご遠慮ください」(立ち入り禁止)などと書いていなくても、そこから先に立ち入らないで欲しい(Private)の意思表示であり、簡単にまたいで入れるからといって、その主旨を無視してはならないのである。
ということで、見当違いの比喩である「ハードル」は、消えてほしいものである。
以上
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