私の本棚 尾崎康「正史宋元版の研究」汲古書院 7/7
私の見立て★★★★★ 2017/02/26
*紹凞刊本の由来 続
私見だが、紹凞刊本東夷伝に於いて、参照に便利なように、「伝見出し」が本文に挿入されていて、それが、『倭人伝』の由来となっているが、これは正史刊本書式でなく、写本段階で、便宜的に書き加えられたものと見ているのである。
刊本に採用された以上、このような小見出しは、魏志東夷伝の本文の一部と見なされていたと見ることもできるのではないか。
*刊本総点検で三国志に「邪馬臺国」はなかった
尾崎氏は、広汎な三国志刊本資料精査の際、倭人伝に関する調査に手を取られたと述懐している。案ずるに「邪馬臺国」を念入りに総点検したらしいが、そう書いた刊本を見たとの証言がない。
*刊刻時の総点検
いわゆる紹興本と紹凞本は、それぞれ刊刻に先立って、当時残存していた各種多数の版本写本を念入りに照合し決定稿を作成したと推定される。その際に「邪馬臺国」とする資料が無かったので、特に注釈の無い今日の刊本となったと思われる。
言うまでもないが、その時点で北宋刊本の良本が十分存在していたら、写本照合は必要なかったと見えるのである。
もし、それ以前に、その時点で一冊限りの国宝である当代原本に「邪馬臺国」と書かれていたものが、「下流」写本で「邪馬壹国」と誤写されたとしても、写本は毎回一から書き起こすものだから、その際に新規に発生した誤写は、その写本限りであって、その誤写内容は、その特定の写本の更に「下流」にのみ継承されるのであり、別の機会に写本を行えば、同一の誤写が再現されるとは限らず、従って、特定の誤写が三国志写本の全体を占めるに至らないはずである。
そして、国宝原本の「複製作成」は、写本の域を超えた厳重な照合確認で完璧を期し、誤写の想定される文字の複写は、特に念入りに検証されるから、『安直な誤写は「ありえない」』と見るのである。
つまり、当たり前の話だが、南宋初期の刊刻原本に「邪馬壹国」と書かれていたから現存刊本に「邪馬壹国」と書かれているのである。大抵の物事は単純な理由で起きているのである。
勿論、膨大な三国志全巻を眺めると、細かい誤字・誤写に起因する刊本間の食い違いがあるようだが、それは別種の現象である。
以上は、当ブログ筆者の私見である。
*おことわり
最後に、素人の私見をよいことに、尾崎博士を「氏」とのみ敬称した点について、無礼を深くお詫びし、氏のご理解を求めるものである。
以上
追記 2017/06/20
尾崎氏の本著は、ご本人の意志に沿ってかどうか、「紹凞本」三国志を高く評価する古田武彦氏の論説の信頼性を低めるためにだろうか、「紹凞本」に関する考察が部分的に引用されることが多いが、本書は、広範な「正史宋元版の研究」を述べたものであり、ここで当方が種々述べたのも、そのごく一部を概観したに過ぎないのは言うまでもない。
氏は、紹凞本の信頼性に対する世評を卑しめるために本書を著述したものではないし、まして、その一部である倭人伝の国名表記を判断しているものでもない。
この点、各論者の戒めとしていただきたいものである。
以上
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