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2017年5月 5日 (金)

私の本棚 出野正 張莉 「倭人とは何か」 6/6

       明石書店    2016年12月刊
        私の見立て★★★★☆          2017/05/04 2019/01/29 2019/11/23

 何故か、肝心の表題を誤記していた粗忽ノ失礼を深くお詫びして訂正する。

第8章 4 『翰苑』に書かれた多利思北孤の都
*翰苑解釈

 ここで、原史料そのものでなく、読み取られたテキストを抜粋引用しているので解釈に疑問を生じている。
 「卑弥娥」部分は、より正確には次の通りである。(影印による)
            卑弥娥惑翻叶群情
臺與幼齒方諧衆望
後漢書曰安帝永初元年有倭面
                    上國王師升至桓遷之間倭國大
乱更相攻伐歷年無主有一女子名曰卑弥呼死更立男王国中
不服更相誅攻復立卑弥呼宗女臺與年十三為王国中遂定

 ここに引用されている後漢書では、「一女子」として卑弥呼の名が出るが、そのとたんに死んでしまうのである。字数制限で無理矢理削除したのか、残ったのは意味不明の「伝」残骸である。
 
 翰苑テキストは、四六駢儷体の二字熟語の連結である漢字句に、その背景となる史料引用を分註しているが、書き出されている漢字句は、当然史実の記述としては大いに疑問である。
 それどころか、分注部で後漢書と明記していても、笵曄後漢書の忠実な引用でないことは明瞭である。文献学で、佚文と呼ばれる断片史料であるから、頭から、信用できないと見て取り組むべきである。


 そうした「些細な」欠点は脇に置いて、漢字句解釈に批判を加えると、ここで、「卑弥娥惑」と3+1文字と見ているが、「卑弥妖惑」と2+2文字に解釈すべきではないか。そうでないと、「惑」が孤立して、不細工である。
 ここでは、卑弥呼という三文字名が、四六駢儷体の制約で卑弥なる二文字名となったとみられる。
 あるいは、八文字、八文字の対句とみると、
卑弥娥惑翻叶群情
臺與幼齒方諧衆望

となり、卑弥と臺與、娥惑と幼齒、翻叶と方諧、群情と衆望が、それぞれ対応すると見ることもできる。ということで、「娥惑」でなく「妖惑」とみられるのである。いや、「娥」は、「妖」の異体字とみるものかも知れないが、当方は、素人なので、そこまで行き届かない

 なお、翰苑以前の事項であるが、後漢書は「事鬼神道能以妖惑」と四字熟語二個を八文字に贅沢に連結しているが、魏志は、「事鬼道能惑衆」と三字熟語二個を六文字に簡潔に連結しただけであり、「神」、「妖」はない。
 言うまでもなく、文筆家范曄が、史官陳寿の無骨な言葉を整えたのであるが、文意が潤色で済んでいるのか、別義になっているのか、素人には判断できない。ただ、安易な追従はできないのではないかと提言するだけである。

 いずれにしろ、翰苑は「史料」として問題が多いのは、論議を広く公開するほどのものには衆知と思う(但し書きしないと、俺は知らんと八つ当たりされるので、書き足した)が、誤字、誤写ゆえに、斬新な感覚を受けるようであり、原本成立時点が「類書」と比較して一段と古いと言うだけで、引用資料の原型を忠実に引き継いでいるとみた「好意的」な世評がある。
 と言うものの、太古の編者に追従してもしょうがないので、何か下心があっての褒め殺しであろう。


 素人の率直な意見として、いずれの時点の書写であろうと、誤字、誤写、さらには、史書に適さない華麗な文飾の多々見られる翰苑に、正史を超える絶大な意義を見出すべきではないと思う。

 以上の批判は、本書のほころびであり、定説の安易な引き写しと見える点もあるのが懸念されたのである。

 因みに、後日気づいたが、この程度の定見は、既に古田武彦氏が発表されていて、当方は、無知に気づかず手柄顔に発表したのである。二番煎じの恥は、汗顔の至りである。

 

以上

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