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2017年6月 1日 (木)

今日の躓き石 「天文考古学」の不可解

                             2017/06/01 2019/01/29
    
 毎日新聞大阪夕刊第三版「文化」面にちょっと首を傾げる紹介記事が掲載されている。

共同研究『アンデス文明』刊行 権力形成の起源に星団観測 パコパンパ遺跡の「神殿の向き」から仮説

*不思議な見出し
 そもそも、見出しに謳い上げている「権力形成の起源に星団観測」なる、文にも何にもなっていない不思議な言葉の羅列の意味が推察できないのだが、これは、最後まで解き明かされていないように思う。それでは、全国紙たる毎日新聞社は、報道の使命を果たしていないのではないか。

*不思議な断言
 「プレアデス星団が夜空に現れる方向は、季節によって変わることはない」と、坂井教授(坂井正人・山形大学教授)が、自説の根拠として断言しているのだが、この短い文章に、突っ込みどころが露呈している。

 北緯30度から40度あたりに位置する日本列島では、夜空に見える天体の昇ってくる方向は、季節によってかなり異なる。そして、空の天体は、悉く、東の地平からのぼって天頂方向に上り、やがて西の地平に沈むのである。

 天体ののぼる方向の通年変化は、赤道付近では、小さいものだろうが、少なくとも、当方が調べた限りでは、指摘の地点は南緯13度あたりであり、地軸に傾きがある以上、年間通じて一定ではないものと思うのだがどうだろう。

 どの程度を「変わることはない」というのか書かれていないが、後ほど、100年に0.5度程度のずれが200年で1度のずれとなったところで、問題になったと仮定しているから、年間通じて1度程度のバラツキは、大いに問題になるはずである。

 素人にはよくわからないが、赤道付近だと、年間通じて、天体ののぼる時刻と方角は完全に一定なのだろうか。当然湧いてくる疑問に説明がないので気になるところである。

*技術の限界
 また、坂井教授は、神殿の遺跡から壁の方向を測定しているが、測定値が約80度とは、どの程度の誤差を見込んでいるのか。
 建設当時の計測の限界として、あるいは、壁の面のバラツキを考慮して、1度程度のバラツキを覚悟しているのであれば、経年変化の1度程度は、当時の観測で検出できたかどうか疑問である。

 また、ピチュと小山を結ぶ直線の向きと言うが、20㌖先のピチュの頂上の一点と「小山の遺跡」のどこかの一点とを結ぶ「仮想直線」を規準として神殿の壁を作るような石積みは、どの程度の精度で実行できるものなのか、大変疑問なのである。

 不確かな根拠で、厳密な判断を下すのは、一種の愚行である。

*「天文考古学」の不可解
 坂井教授は、「天文考古学」と物々しく言い立てているが、かなり胡散臭い響きのある言葉であり、もっと地道な地上で行われる測量技術や土木技術から考察すると根拠不明と見られるのである。

 考古学の先賢の至言であるが、考古学の考察対象となっている時代の人々が知らないことを根拠に論じてはならないと思うのである。

*赤道直下の「季節」
 これも、地上の話であるが、このような赤道付近地域に「季節」はあるのだろうか。南半球ということで、夏季と冬季は北半球と逆転しているのだろうか。要は、当方には、坂井教授が、殊更に「季節」と書いている意味がわからないのである。

 現実に毎年6月下旬、つまり、北半球で言う夏至の時期にプレアデスののぼる方向を確認すると言うことであれば、ここにあげたような「断言」は必要ない。
 
軽率に余計なことを言わなければ、このように素人の追及を受けることはないのである。

 おそらく、その時期、夜の浅い内に、東の空に星団がのぼるのではないかと思われる。時間が経てば、星団は高く昇り、その方向の観測が困難になると見るのであるが、一介の素人が現地も見ずにいっているので、単なる憶測でしかない。

 いずれにしろ、星団の方角は、年間通じていつでも観測できるというものではないように思うだけである。

 坂井教授は、学会発表と同様の読者を想定しているから、自明のことは書いていないのだろうが、仮説の前提が不明瞭では、先が続かないように思うのである。

*根拠不明の権力移行
 合わせて、坂井教授は、何の根拠があってか、(それまでの権力が破壊されたのか)「新たな権力」の形成を想定しているが。何か具体的な資料が見つかっているのだろうか。祭祀が「エリート」に独占されたという意見共々、唐突で、理解も共感もし難い。

 かなり古代の世界でも、祭祀を行うものは、一般人とは別の扱いを受けていたようであり、一種の特権を得ていたろうが、時には、最上の犠牲として供されたこともあるようである。
 「エリート」なる後世概念が安易に当てはめられるかどうか、疑問である。ここでも、考察対象となっている時代の人々が知らない言葉、ないしは概念を根拠に論じてはならないと思うのである。

 まして、何をもって、「権力形成の起源」と力説しているのかわからないのである。
 紀元前1200年からの200年間に何かがあったのかも知れないが、現地では、現代に至るまで、おそらく3000年に亘ってプレアデス星団を観測していると言うことだが、200年間で起きたことが、その後の3000年間にどう変化したのか、起源に基づいて形成された権力は、如何に発展し衰亡したのか、興味あるところである。

*原文不参照の非礼を謝罪
 いや、立ち入った批判は、原論文を読解した上となるべきなのだが、現に全国紙に記事として掲載された以上、坂井教授ご自身、掲載された内容に対して、ある程度の責任が伴うと思うので、記事の不適切と思われる点を率直に批判したものである。

 失礼極まりないと思われるかも知れないが、一介の新聞読者としては、納得のいかない仮説の展開には、素人なりに批判せざるを得ないのである。

以上

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