今日の躓き石 「昔のSF」という亡霊
2017/07/25
今回の題材は、毎日新聞大阪夕刊の夕刊ワイド面「旅はバーチャルで(以下略)」なる、巨大記事である。
担当記者は、枕の部分で、相談相手のコメントを利用しているが、それが「技術系の人の予測は楽観的になりがち」と一刀両断にした後、「昔のSF」なる陳腐な常套句が出てきて、不審感を募らされるのである。
記者は、「技術系の人」を多く知っているのかどうか、「昔のSF」について造詣が深いのか浅いのか知るすべもないが、担当記者として、発言者の意見に同感したから、冒頭に引用したのだろうが、こういう風に、大づかみな個人的見解に、批判精神のないまま同意し、コメント無しに読者に丸投げしたとすると、ちと乱暴ではないかと思われる。
ここで紹介されている「本」を見ると、登場しているのは、科学者系の人物であって、実世界で物作りに勤しんでいる「技術系」とは、随分気性が異なっているように思う。技術者は、コストとか、市場評価とか、「銭の取れる」事業になるかどうかの「瀬踏み」をしてから、新技術の流れに乗り込むものである。
これに対して、科学者の多くは、大胆な仮説を立てて世間を騒がせる趣向の人材が多いと見るのである。そういう傾向の人材が、一山狙いの大胆さを競う未来予想をすると、全体として楽観的になるのは、予想されるところである。勘ぐるに、悲観的な言い分を出し過ぎると、「科学者」業界から排斥されるのではないか。
それにしても、引き合いに出された「昔のSF」とは、具体的にどんな諸作を言うのだろうか。H. G. ウェルズ以来、新規の科学技術がもたらすのは弊害となっている例が大半のように思うのである。
心ある記者は、報道のプロの役目として、識者のコメントを丸呑みするのでなく、自分なりに咀嚼して味わい、以上のような突っ込みを入れるものではないのだろうか。
以下の記事で展開された仮想現実(幻術?)の弊害については、すでに「昔のSF」で説かれているところであろう。例示して頂ければ、もう少しはっきり批判できるのだが、知る限り、こうした技術は、「昔のSF」ならぬテレビシリーズで紹介されているものでもある。
いや、時には、活字だけの力で架空世界を展開し、読者の想像力を刺激して、時に現実と交錯させ、意識の上で混同させるのは、伝統的なファンタジーの世界である。
それにしても、仮想と言えばきれいに聞こえるが、本来、Virtualとは、見せかけ、偽物、まやかしという意味である。当世風言葉で言うと、「リアレス(現実レス)」であり、それにRealityと続くと、何かの悪い冗談のように感じるのである。
こうして、頭の部分だけ味見して、ちょっと、安直に取り組んで、安直なつまみ食いしている記事ではないかと、不審感をいだくのである。
全国紙の記者として、こうしたへそ曲がり読者の声も、忖度して頂きたいものである。
以上
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