今日の躓き石 ベートーヴェン第九歌詞の無粋な字幕
2017/09/17
今回の題材は、ベートーベン第九交響曲の歌詞の無粋な翻訳である。
と言っても、誰がどうかと言うことではない。ほぼ、全部がそう訳されているのであるから、定訳というしかないのであるが、いくら定説であっても、異論を唱えるのである。
いや、この点は、当ブログで一度書いた気もするのだが、趣旨が伝わらなければ、また書くのである。
衆知の如く、件の字幕は、ここで歌われていた、ドイツ語で書かれたシラーの詩"Seid umschlungen Millionen"の日本語訳であり、大要として、「いだき合え幾百万の人々よ」と言う呼びかけである事に違いはないが、それでは、詩の本来の趣旨に即した翻訳にならないのてある。
シラーは、全世界とか、あらゆる人々とか、当時知られていた全世界に呼びかけて書いているのに、日本語訳では、呼びかけの対象は、百万人の一桁整数倍であり、つまり、東京都人口に遠く及ばない、むしろ少数の人々であるかのような印象を与えているのである。
大事なのは、millionは、確かに日本語では百万、つまり、1,000,000であり、シラーの詩では複数形であるにしても、日本語では百万から九百万までであるかのように見えてしまう。
しかし、英語で言えば、10,000,000は、依然としてten million(10百万)でmillionの範囲であって、これは日本語の言い方にはないのである。この言い方は、100,000,000(100百万)の位、つまり、億まで続き、10億で始めてbillionとなる。
すこしもどって、9億9千万まででmillionの領域なのである。
少なくとも、シラーは、世界に数千万の人々がいることはわかっていたから、日本語訳は、何とかして、その主旨が伝わるように書くべきではないだろうか。
つまり、シラーの趣旨に従い、百万というのを止めて、無数の人々よとか、全世界の人々よ、とかに言い換えるのが、正しい翻訳ではないだろうか。単語としては、違うが、詩の趣旨としては、そう言い換えるしかないように思う。
最初気づいてから、かなりの歳月が過ぎたが、同感してくれる人が見当たらないので、蒸し返しているのである。
以上
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