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2017年11月20日 (月)

「今どきの歴史」 第三回を巡って 今どきの政治小説 古代史ロマンの書

          私の見立て☆☆☆☆☆               2017/11/20

今どきの歴史
 『神話と天皇』古代史家・大山誠一氏刊行 天皇制、藤原氏のため?

 毎日新聞夕刊文化面の月一(とは書いていないが)読み物「今どきの歴史」第三回は、書評というか、書籍紹介となっている。

 内容は、だから、基本的に原著者の記述の引用なので、担当記者の責任ではないが、全国紙の署名記事であるので、文責は署名した記者として批判しておく。原著を購入する気はないので、記事批判とするものである。

*史学書。それとも、政治小説

 まず、当記事は、『神話と天皇』を大山誠一氏が刊行したと言うが、普通、このようなとき言う刊行者は、平凡社ではないのだろうか。平凡社の見識はどうなっているのか。不思議である。

 また、書評の対象は、「天皇制とは「藤原氏が永続的に国家の実権を握るため、藤原不比等がつくった制度」と定義する」「本」となっていて、独自に言葉を定義する「意欲作」とあるので、学術論説でなく、作文、創作と見るべきなのだろうか。

*粗雑な史料批判
 次の段落からは、原著者の言い分の紹介のようであるが、学術論文であれば、「史料批判」で欠点だらけのように思う。

 例えば、日本書紀(720年成立)と断定しているが、日本書紀の原本は存在しないから、幾度も写本、追記、改訂のなされた何れかの現存写本をもとに書かれたのだろうが、議論の根幹を明らかにしないのは不用意であろう。

*現実錯視
 と言うことで、「事実」、「現実」と独善的な言い方が目に付くが、何の根拠も示さないでは、千数百年前の事実や現実が、どうしてわかるのだろうかと疑問が湧く。いや、原著者が確たる史料と確信したとしても、それは、専門家の仲間内の意見であって、一般の現代人がそのまま受け止められる物ではないのではないかと懸念する。

 と言うことで、要所で規範とされている「現実」、「事実」の根拠は、書籍/毎日新聞紙を購入した読者だけでなく、ここで、紹介を読まされている購読者が、自身で検証できるように、明確にすべきであろう。

 それとも、「日本古代史」学会とは、各論者が勝手に「事実」、「現実」と個人(複数者も含む)的な意見を言い立てて、それで済む学会なのだろうか。批判なき身内びいきで済むのなら、また一つの岩盤かとも思える。

*世界先駆の政治小説
 第一段最後に、原著者の発言として「日本書紀の神話は太古から伝わる民族の伝承ではない。編纂の時点で創作された政治小説」と断定している。

 いや、どこからどこまで神話かと限定して語られていない以上、そして、対照される「現実」が、実際上書記編纂当時まで及んでいる以上、「日本書紀の神話」とは、書記全体が神話との意であり、従って、書紀全体が政治小説であるとみるべきなのだろう。

 「日本書紀の神話」の核心部は、原著者が自認しているように、一書なる異説を複数並記したものであり、とても、編纂時の新規著作物とは思えない。また、写本継承過程のはめ込みや研究者の勝手な修正とも見えない。
 書記全体が創作との見方は、核心部が伝承に大きく依存している以上、自己矛盾を起こしているように見える。
 また、八世紀当時「政治小説」などという物は、世界中どこにもない。曲筆すら中国にしかない概念であり、捏造とか、潤色とかも、後世人の勝手な、物々しい当てはめである。これは、とんでもない時代錯誤である。

*夢幻眩望
 憶測で申し訳ないが、原著者は当時を実体験したわけでもないはずだから、七世紀から八世紀にかけての「現実の政治過程」は知るすべがないはずである。

 してみると、書記の「創作順序や時期」を「明らか」にしたと断定するが、全ては、原著者の白日夢が吐露されているものではないのか。それならそれで、読者の受け止め方も違う。

 ついでに、古事記(712年成立)の現存写本に対する書記同様の疑義は別として、記紀同時期編纂刊行、つまり古事記が日本書紀と同時期に編纂され、共に世に知られ、輻輳していたと断定するのは、これも原著者の白日夢のように思う。

 原著者の見解によれば日本書紀の独自創作に過ぎない「神話」と同類の神話が古事記に書かれているのは、普通に考えれば、両者共通の文化遺産を継承したと見るものではないか。それとも、書紀に反発しながらも、堂々と盗用したのだろうか。

 原著者が、どのような同時代史料を根拠に書いているのかわからないので、素人考えを言い立てるのは大変申し訳ないが、現代人が目にしている記紀史料を見ると、そのように憶測するのである。

*つたない自作自演
 因みに、末尾に「不比等による天皇制は681年に成立した」との原著者の主張に、「当時24歳の若造が剛腕を振るえた背景」と付言されしているが、不比等が当時24歳という根拠は、「政治小説」創作の記述、つまり自作自演ではないのか。いや、物の道理を言っているのであって、提言の当否は言っていない。

*蘇我王朝はなかった

 ついでながら、「蘇我王朝」なる造語も粗雑であり、学会として未検証と思う。どこでも王朝、だれでも王朝、とは言わないが、「蘇我王朝への郷愁」などと、訳のわからない言葉を載せるのは、全国紙夕刊紙面の浪費であろう。

*「今どきの」政治小説

 と言うことで、当記事を見る限り、担当記者が巧妙に明言を避けているとおり、本書を古代史史学書と見るのは、一読者の軽率な誤解であり、当節流行りの日本書紀読替本に属する古代ロマンとしてみた方が良いようである。

 今どきの歴史、というのは、例えば、スポーツ界でなにか新記録が出る度に簡単に書き替えられている、今どき言葉の「歴史」の事なのだろうか。それは、今どき言葉で言えば「すごすぎてやばい」

 それで、次作政治小説なる続編が売れたら、まあ、古代史史学書の皮を被った白日夢がメシの種になるご時世は、原著者にとって結構なことなのだろうが。

以上

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