「今どきの歴史」 第五回を巡って
2018/01/20
私の見立て★★★★☆
留守をしていて、確認が遅れたが、毎日新聞の18日夕刊に「今どきの歴史」が出ていた。
遺物精査で見出された新たな国産鏡説であるが、例によって、論争不利と見たらしい魏鏡派から反論が出ないのは、実質上無条件降伏という事なのだろうか。
それにしても、「今どきの歴史」の筆者である毎日新聞記者は、提唱者である鈴木勉氏の著書に開示された提言を咀嚼し、消化し、我が物にした上で、合理的な意見を提示している。全国紙の記者は、かくあるべきである。賞賛に値する。
ただし、今回取り上げた画期的な見解の提唱者にしてからが、「大和地域に本拠を置く複数の移動型の工人集団」による「出吹(でぶ)き」などと、「アクロバット的」な迷言を物しているのは、何とも、もったいない話である。
古代の一時期、そのような工人集団が、どのような上位組織に所属して、どのようにして担当業務を遂行して、生計を維持していたのか。どこにも根拠が示されていないはずであり、何か神がかりでもあったのかと、大変不思議に思うのである。
地に足をつけた推定では、何れかの交通要地に専門家が工房を築いていて、そこに各地から、対価(後世なら「大金」)を手にした「客」が参集したと見るものだろう。いや、制作依頼時は、手付けをもって乗り込み、納期には、粛々と対価を支払って受納したのだろう。取り決めの心覚えとして、契約書めいたものは取り交わしただろうから、商業道徳や契約慣行はできていたはずである。遠隔地から注文を受けて、納品し、対価をそこで受け取るというのは、随分後世の話だろう。
原材料調達の便といい、製品配送の便といい、そして、提唱者に従うなら「出吹き」の際の大道具の輸送といい、河川交通の恩恵がなければなり立たないと見るのである。
この観点から言うと、山間に逼塞した奈良盆地南部飛鳥や奈良盆地中部纏向の界隈では、鋳物工房なる「重工業」の本拠は成立しないであろう。辛うじて、なら山越えで淀川水系木津川の水運に密接な関係を持っていたであろう奈良盆地北部なら、成り立ったかと思われる。(後に、広大な平城京が設定された由縁である)
このような議論には、今後とも、明解な結論は出せないだろうが、時代の交通・輸送能力や紙文書無き「前文明」の「国家未形成」の様相から、そのように思うものである。
いや、銅鏡の細部に、制作者の署名というべき無二の痕跡が見て取れる、という地道な見解の打ち出しには、大いに敬意を表しているのである。
以上、勝手に推定しているが、普通に考えればそうなると言うだけで、絶対というわけではない。
くれぐれも、健全、堅実な「ものの見方」を大事にして欲しいものである。
以上
上に書き忘れたので、余談として追記する。
「アクロバット的」と意味不明なカタカナ語だが、この言葉は、アクロバットを低次の駄芸と見るものには、罵倒の言葉であるかも知れないし、アクロバットを超絶技巧と見て喝采するものには、極上の褒め言葉であるから、読者の理解が不安定になる。注意したいものである。
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