私の本棚 季刊「邪馬台国」 134号 石野博信 「大和・纏向遺跡と箸中山古墳」 3/5
以上は、提示された建物図を真に受けたためである。これほどりっばな建物を計画的に建て上げるためには、当時として、超絶技術が必要だったのである。そのためには、周辺技術も必要であるし、人材も必要なのである。そして、技術は、人が担うものである。人は、瞬間に育てることはできない。画餅は、腹の足しにならないのである。
掘立丸太柱の藁縄組で小振りの屋根であれば、ひょっとすると、同時代在来技術で建造できたかも知れないが、絵に描かれた立派な建物は、一日にして成らずということである。例えば、これほどの屋根を葺くには、高々と足場が必要だし、葺き替えはできないと見える。
こうした難点は、石野氏は、十分承知の感じであるが、なんとしても、遺跡を偉容化し、時代を繰り上げねばならない後進世代が説得した感じである。氏の晩節を汚すものでなければ幸いである。
*薄肉土器の全国制覇
ずっと、素人の口を挟めない専門的な意見が続くが、この時期、薄肉土器が好まれて、近畿製品が広く到達していたという事のようである。当時、土器は加熱調理に使われていたから、薄肉の方が圧倒的に熱が伝わりやすく、今日言う「時短」製品だったようである。
*古代の超絶技術
だったら、各地で模倣したら良さそうだが、薄肉土器を作るには、一旦従来通りに形づくった土器の壁を削る必要がある。
これは、下手をすると壁が破れたり、形が壊れたりするので、良い道具と良い腕が必要である。壁の厚さは、物差しで測れないから、手加減で仕上げるのである。どこでも、誰でもできるわけではない。
さらに、そのようにして薄く削られた土器を素焼きして固めるまで、型崩れしない工夫が必要である。
*設備革新
粘土は適度に固くて、精細な必要がある。でないと水漏れする。となると、水車など、粘土を細粉化するまで突き砕く施設があったのだろう。成り行きでは、高い品質が維持できないのである。
工房には、一定速度で回転するろくろがあったのだろう。
また、薄肉土器を、高い温度で焼き締める専用窯が使われていたのではないか。
このように、高度な技術によって、薄くて、しかも、割れない土器が、揺るぎない品質で数多く生産され、好評を得たはずである。
*土器経済大国
と言うことで、近畿製薄肉土器は、広く珍重され、現代風に言うと「高値」で、道のり遠い「全国各地に」売れに売れたのである。
特に希少鉱物を産したわけでもない近畿に大量の銅鏡が到来したのは、薄肉土器との交換によったかと思えるのである。近畿政権は、死の商人と言われかねない鍛冶工房だけでなく、生活必需品である薄肉土器を生産する土器工房を多数設けたかと思う。
未完
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