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2018年7月 1日 (日)

私の本棚 東野治之 百済人祢軍墓誌の「日本」 1/1

 掲載誌 「図書」 2012年2月号  (岩波書店)                  2018/07/01
 
 私の見立て ★★★★★

◯総評
 当研究論文は、昨今大分知れ渡ってきた『百済人祢軍墓誌の「日本」』に関して、碑文を逐一吟味するという、まことに地味な議論であるが、先駆けとして、隅々まで論拠を明らかにしているので、後続の論者が、一歩一歩追随できたのは見事と思う。
 掲載されたのは、毎号格調高い記事が敷き詰められた当月刊誌の巻頭であり、その扱いに相応しい堂々たる論文と受け止めた。

*経緯
 本件経緯としては、先ずは、中国吉林大学王連龍氏の研究論文をもとにした朝日新聞記事で、日本国号をめぐる新史料の発見が報じられた(2011年10月23日)。

 東野氏は、声を大にして戒めているが、この記事に示された碑文資料を一見したとき目に付く結論に飛びつき、前提となるべき資料批判がなおざりになる「軽率」の風は、古代史学ではむしろ当たり前で、当論文の慎重・堅実な見方は、ごく少数派になっている。

*論証
 東野氏は、本件の初出論文である王氏の研究論文を熟読し、碑文に「日本」と書かれているとの王氏の判断を尊重・継承した上で、

    1. 碑文を国号「日本」の使用例と見るのは早計である。
    2. 文脈から見て、「日本」は、詩的字句であり、現実の国名とは考えられない。
    3. 「日本」は、漢魏代の遼東、楽浪、帯方の三郡領域、後の、高句麗、百済、新羅の三国領域では、東方、日之出の場所として用いられていて、必ずしも、後世の「日本」と同義ではない。
    4. 碑文の「日本」云々は、むしろ、百済遺民の逃亡と見られる。

 と、細かく抑えて、それぞれ、妥当と思われる。

 とかく、国粋的視点からのみ判断して、丹念な論証が無視され、折角の丹念な論証が等閑にされているが、科学的な見方をする限り、東野氏の論考は、全て妥当な論証と見られる。

以上

*ささやかな批判
 当論文で同意できないのは、国名抜きの日本列島として、「倭国」と表記していることである。(碑文とは関係無い、東野氏の地の文である)

 同時代の正史である舊唐書も、本紀などで、構文、体裁上二字名とせざるを得ない時を除いて、「倭」と呼んでいる。これは、三国志、後漢書を継承している。また、「日本国」とも書いていない。百済国、新羅国と書かないのと同様の趣旨である。

 「倭」の実態については、ここでは論じない。

 

*ささやかな異論
 東野氏は、「于時」を先触れと見て、「日本余噍、拠扶桑以逋誅」とこれに続く「風谷遣甿、負盤桃而阻固」を四字句+六字句構成の対句と捉え、まことに、妥当な構文解析と思う。

 

 ここに、当ブログ筆者は、「于時日本余噍、拠扶桑以逋誅」と六字句+六字句と読めるではないか、そして、それぞれの六字句は、三字句+三字句で揃っているのではないか、と、あえて異説を唱え、見解が異なる。

 つまり、当碑文は、「于時日 本余噍 拠扶桑 以逋誅」と読み、国号にしろ、詩的字句にしろ「日本」とは書いてないとするのが、当異説の壺であり、無謀かも知れないが旗揚げしているのである。
 ちなみに、「本余噍」とは、「本藩」、すなわち「百済」余噍、つまり、「百済」残党である。

 従って、当碑文は「日本」国号の初出資料ではないと見るのである。これは、東野氏の説くところに整合していると思う。

 但し、この異説を認めると、墓碑碑文発表以来の「日本」論議が、半ば空騒ぎだったことになってしまうので、中々認められることはないものと思っている。
                                            完

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