私の本棚 一中国人の見た邪馬台国論争 ⑺ 張明澄 3-3
季刊邪馬台国第17号 (1983年9月刊) 好評連載第七回
私の見立て ★☆☆☆☆ 末尾の提言 ★★☆☆☆
2018/09/15
*倭人伝水行論
倭人伝を読むと、狗邪韓国から末羅国に至る行程は、三度の渡海を示しているが、これは、官道を行くように、一里、一里刻んで進むものでないのは明らかである。単に、それぞれの渡海の前後の日数を含めて、それぞれ三、四日、総計水行十日を要すると見なしたものである。
渡海を「水行」というのは、倭人伝独特であり、三国志本文にほとんど見られないことは容易に確認できる。伝統的な中国漢文で「水」は、河川であり海ではない。倭人伝は、海洋交通が発達した地域事情に合わせて、正統的漢文と異なる用語を駆使しているのである。
それとも、張氏は、当時、海上移動の経路が「海路」と制度化されていて、その路長が道里として実測され、里程標が敷設されていたと言うのだろうか。それは、壮大な蜃気楼と言わざるを得ない。
*欠陥だらけの羅列
ということで、今回も張氏の議論は迷走して論拠が散乱、折々に暴言を挟むが、「致命的」欠陥があっても人は生きて行けるものと思うしかない。
最後近く「妙な」証明の仕方と言うが、これは、褒めているのか、貶しているのか、特定できない。時代によって意味が変わっている言葉をぶちまけては泥仕合は収まるはずがない。
*ご褒美か蛇足か
末尾に蛇足ならぬおまけのご褒美として至言が書かれている。
⑴証拠は証明能力をよく確かめてから出すこと。
⑵原文を出して訓読文で出さないこと。
ぱっと見、今回もごもっともなご託宣のようであるが、少し気合いを入れて読むとしても「致命的」に理解困難である。いや、救急車を呼ぶ必要はない。ちょっとした咳き込みだけである。
前者は、前記されていた「証明能力の識別」らしいが、識別能力が欠如しているものがどうやって識別できるというのだろうか。
先だって、「語学的に問題になる」と言う言葉づかいも、読者によって定まらない。「問題」は、学校の授業で生徒の理解を確かめるために出されるなぞなぞであり、隠された回答があるが、一般社会で「問題」とは、事態を混乱させている諸悪の根源、打破すべき難関という意味で解されることが多い。倭人伝の原文を滅ぼされてはたまらないのである。
以上のように、簡単な単語でも、時代背景、著者の意図によって、意味が大きく変わるのである。これは、氏の忌み嫌う冒瀆であろうか。
後者は、文献証拠を提供するときは必ず原文を引用参照せよ、と言う意味であろう。また、当然、日本語で説明をつけるのであろう。でないと、読者は内容を正確に理解できないから、著者の意図が読者に、全く伝わらないのであり、そのような表現は、度しがたい自己満足でしかない。
かくのごとく、張氏が力説する、高邁なご託宣は、死の床にある現代日本人の邪馬台国研究家には、実行不可能である。
完
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