« 今日の躓き石 サイト記事の権威喪失 TPP11騒ぎ | トップページ | 今日の躓き石 日テレの暴言日米「同級生」につける薬 MLB来日 »

2018年11月 2日 (金)

倭人伝の散歩道 卑彌呼の正体は「畀彌呼」か

                              2018/11/02

 

 白川静氏の字源字書「字統」を眺めて、卑彌呼という名について、これまで思っていたことを考え直す。以下、漢字学的な解説は字統による。推測、憶測は、当ブログ筆者のものであり、今のところ、先例を見つけていない。

 

 結局、国名、すなわち固有名詞の臺と壹のどちらが正しいか結論が出せないと言うことは、他の固有名詞も疑って良いということである。

 

 例えば、翰苑の写本、太平御覧の刊本で見えるように、卑には異字が見られる。末尾に示したように、太平御覧の現存刊本にこの異字が散見される。女王名以外に、官名などに登場するから、倭人傳内に限れば、結構用例が多い。

 異字候補は、「畀」である。発音は、同じく「ヒ」であるが、当然卑しいという意味はなく、贈る、賜う、与えると言うように、貴重なものの授与に使う言葉である。

 字形は、「絶対違う」と言い切るのに大変な努力と勇気が要るほどに似ているのてはないか。いや、この字は、設定によっては表示されないことがあると思われるので、字形を説明すると、田の下に丌であるが、この部首も表示できないのであれば、下の字の左右反転である。卑との違いは、「田」のてっぺんにちょんと「’」が乗っているかどうかにもあるようにも見える。であれば、ここに見えているのは、「畀」である。

 

 続く、「弥」(び、み)は正字では「彌」(び、み)であり、つくりの部分「爾」は、字統によれば、女性の文身を示すとのことである。元々、長寿を言祝ぐ意味だったようである。但し、異字という事ではない。

 

 「畀彌」の意味は、文身を備えた巫女に長寿が恵まれることを祈念したということで、貴人の名として筋が通っているように思える。自称として、特に尊大でも無礼でもなく、妥当ではないか。

 

 これまで、当方は、個人的な意見として、「卑」の字源から、卑彌呼は、柄杓で水を汲む若い女性と考えたが、畀彌呼であれば水汲み女ではなくなる。

 

 良くある牽強付会説の論法に倣って「畀が卑に誤伝された」と仮定すれば、それは、三国志継承のごく早い時期だったかも知れない。倭人伝は、最初から卑彌呼と書いたようにも見える。三国志には「俾彌呼」も見かけるが、と言っても、ほぼ、それっきりの登場であるから、殊更この文字遣いを正確とする絶対的な裏付けがないように見えるのである。

 

 「畀」と「卑」は、殊更崩し字で比較しなくても、随分似通っているから、壹臺誤記論のように、草書写本論を持ち出す必要もないのである。

 帯方郡、ないしは、中国側の鴻廬館の関係者が、蛮夷の女王だから「卑」と決め込んだのかも知れない。わからないことは、いくら考えてもわからない。

 

 いや、壹臺誤記論で言い古された論法を持ち出すと、陳寿原本も裴注原本も、現存していなくて、せいぜい、翰苑や太平御覧に、刊本事業で整頓される以前の面影を窺うしかないのだから、結局、畀彌呼論を完全に否定することはできないと思うのである。
 あわてて追記すると、宮内庁書陵部蔵書の三国志紹凞本、つまり、木版印刷本でも「畀」のようにも見える「卑」が印刷されているように見える。写本工の判定の癖というわけでもないようである。

 

 

 

 いや、今更の一説として、ひっそり世に出る価値はあると思うのである。
 

 

 

以上
 

« 今日の躓き石 サイト記事の権威喪失 TPP11騒ぎ | トップページ | 今日の躓き石 日テレの暴言日米「同級生」につける薬 MLB来日 »

歴史人物談義」カテゴリの記事

倭人伝の散歩道稿」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 倭人伝の散歩道 卑彌呼の正体は「畀彌呼」か:

« 今日の躓き石 サイト記事の権威喪失 TPP11騒ぎ | トップページ | 今日の躓き石 日テレの暴言日米「同級生」につける薬 MLB来日 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2025年6月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • 「周旋」論
    魏志倭人伝の「周旋」に関する論義です
  • 「長大」論
    魏志倭人伝の「長大」に関する論義です
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 卑弥呼の墓
    倭人伝に明記されている「径百歩」に関する論義です
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は、広大な歴史学・考古学・民俗学研究機関です。「魏志倭人伝」および関連資料限定です。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 資料倉庫
    主として、古代史関係資料の書庫です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
  • NHK歴史番組批判
    近年、偏向が目だつ「公共放送」古代史番組の論理的な批判です。
無料ブログはココログ