« 倭人伝随想 1 倭人とは何者か 2/3  | トップページ | 今日の躓き石 「リベンジを果たした」が消えない悔恨 NHKアナの浅はかさ »

2018年11月23日 (金)

倭人伝随想 1 倭人とは何者か 3/3 

                    2018/11/22
*後漢貢献
 束の間の新は、長安を落とした反乱軍に討たれて崩壊し、漢以来の栄華の帝都長安は荒廃しました。劉秀(光武帝)は、東都洛陽を帝都として帝国を再興する建武の治を起こし、楽浪郡にも天下太平の布令、参集指令が届いて、王莽の招聘が功を奏した来貢がありましたが、それは光武帝の末年でした。蛮夷は、王莽により「倭奴」と呼ばれていました。

 その後、「倭奴」は漢制で「倭人」と知られ、漢礼復興と共に「倭人」は、再度認められましたが、またも、歴史の陰に埋もれ、公孫氏は、倭の価値に気づかないまま滅亡し、傘下の楽浪・帯方郡も単なる東夷と遇したのです。

*帯初遣使
 魏朝による帯方郡回復後、東夷平定、特に倭人招聘の指示を受けた新任帯方郡太守の厳命により急遽参上した倭使は、帝都洛陽に連行されて堂々と皇帝拝謁を遂げました。

 魏朝第二代皇帝とは言え、祖父曹操、父曹丕の偉業を乗り越え、漢の遺制を払拭して魏朝を一新する烈祖としての新創業を目指した皇帝曹叡は、倭人を未曾有の新来東夷として厚遇するよう指示したので、自身は雄図空しく早世したとは言え、その意図は暫し継承されたのです。

 東夷を帝国の東方辺境の抑えと遇する先帝明帝の遺志は、幼帝曹芳の治世では後ろ盾を得られず急速に退潮したというものの、束の間、貴重な文物の将来で訪れた中華文明光芒は、辺境の東夷に活気を与えたのです。

*終章
 以上の経緯は、表だって称揚されたものではないから、魏の官人である魚豢は、あえて魏略で言い立てず、陳寿も、正史記事にない部分は明記せず、かくして、「倭人」由来譚は、史書から影を潜め、由緒正しい「倭人」の意義は忘れられ、単に蛮夷諸国の一として「倭」と呼ばれたのです。

 ただ、陳寿は、以上の倭人遍歴の光陰を捉え、後漢の「倭奴」を克服して、あえて、本来の「倭人」と書いたのですが、一方、東夷伝記事の倭、倭国は、陳寿の編纂方針に従って原史料の用語を温存したのです。

                               以上

*謝辞
 以上、拙論の手掛かりとして、白川静氏の著書を参考にさせて頂いたことに深く感謝するものです。氏は、漢字学の分野で比類無い業績を残されていますが、甲骨文字、金文などの古代文字史料を隈無く精査したことによる中国古代、殷周代の民俗、文化に関する情感豊かで、広く、深い思索の成果は、大変貴重であり、拙論に、出典を逐一付記すれば、付記が本文を圧すると思われます。

 しかし、拙論は、論考でなく、出典に立脚した、あるいは、啓発された随想であることは明示しているので、一々書名を注記しておりません。

 この際の処置について、無作法をお詫びすると共に、拙論の趣旨を一考頂ければ幸いです。

                             この項完

« 倭人伝随想 1 倭人とは何者か 2/3  | トップページ | 今日の躓き石 「リベンジを果たした」が消えない悔恨 NHKアナの浅はかさ »

歴史人物談義」カテゴリの記事

倭人伝随想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 倭人伝随想 1 倭人とは何者か 3/3 :

« 倭人伝随想 1 倭人とは何者か 2/3  | トップページ | 今日の躓き石 「リベンジを果たした」が消えない悔恨 NHKアナの浅はかさ »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2025年6月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • 「周旋」論
    魏志倭人伝の「周旋」に関する論義です
  • 「長大」論
    魏志倭人伝の「長大」に関する論義です
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 卑弥呼の墓
    倭人伝に明記されている「径百歩」に関する論義です
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は、広大な歴史学・考古学・民俗学研究機関です。「魏志倭人伝」および関連資料限定です。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 資料倉庫
    主として、古代史関係資料の書庫です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
  • NHK歴史番組批判
    近年、偏向が目だつ「公共放送」古代史番組の論理的な批判です。
無料ブログはココログ