倭人伝随想 9 晋書地理志に周朝短里を探る 2/9 改
2018/10/26 2018/12/26 修正 2020/11/08
*太平の崩壊招く愚策
実は、最後の呉を滅ぼして天下統一した皇帝が、太平に甘えて官兵を靡兵、解雇したために、失業した多数の元官兵が、各王の私兵となったのです。
野心家が天下を狙うとなれば、教育、訓練の要らない、命令服従を本分とする元職業軍人は強力な武器であり、各王が他の王に対抗して強力な軍を組織し台頭を図ったため、乱世の幕を拓いたのです。束の間の天下太平であり、晋朝は自滅政策を行い、始皇帝以来の統一国家は瓦解し、四世紀に亘り南北二分されたので、晋皇帝は大罪人ということになります。
*前車の轍 始皇帝の構想
天下統一で兵力過剰に直面した秦始皇帝は、大軍を匈奴対策名目で北方に駐在させ、全国から、長城や寿陵建設に大量動員して失業軍人の反乱を避けたのです。税収に即した緻密な動員策が必要ですが、全国地方官からの統計情報を元に計数に強い官僚がギリギリまで民衆を絞りあげれば、中央政権を永続できたはずです。一方、全国から不平分子を徴用して反乱の原動力を吸い上げ、併せて事業経費を幅広く徴収して反乱の資金源を断つ戦略です。
とは言え、後継皇帝は、そのような巨大な戦略に気づかず、崩れた過酷な動員と徴税を続けたため、衆怒を買い、反乱多発の状態となったのです。
*晋書由来
晋書の素性を知るため、中国史を抜粋しましたが、晋書は、南方に逃避した東晋政権や後継の南朝諸国では編纂できず、北朝を継いだ唐朝で、太宗麾下の重臣房玄齢の率いる錚錚たる集団によって完成したのです。
既に、時代は、南朝を討伐して全国統一した隋が天下太平維持に失敗したために、またもや生起した全国反乱を統一した正統たる唐の御代であり、晋書を、南北朝の乱世を生起した晋朝の不始末をうたいあげる、いわば反面教師としての正史としたため、史談とも言うべき本紀、列伝において、風評に富んだ「面白い」史書になったのです。
但し、当方が取り組んでいる地理志は、地理情報、統計情報を記した「志」であり、そうした演出とは関係無く、歴代政権の公文書として継承された豊富な資料を、丁寧に駆使した意義深いものです。
*「志」を欠く先行史書
先行史書で言うと、後漢書は、自身の「志」を備えず、唐代に、別史書の「志」と併合したものです。そして、三国志は、遂に「志」を持たなかったので、晋書は、漢書以来久々の体裁の完成した正史となります。また、後漢書が、ほぼ笵曄単独の労作であり、三国志も、陳寿の指導力が強く反映しているのに対して、晋書は、房玄齢以下の集団著作とされていて、厖大な数値データを参照する必要のある「志」の編纂に相応しい体制であったと思われます。もちろん、四世紀ぶりに、乱れた全国を再統一した唐王朝の国力も、強く反映されています。
つまり、晋書地理志は、大変信頼性の高い史料と見るものです。
未完
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