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2018年12月11日 (火)

新・私の本棚 東野治之 百済人祢軍墓誌の「日本」 1/1

 掲載誌「図書」2012年2月号 (岩波書店)

 私の見立て ★★★★★ 必読         2018/07/01  2018/12/11

*緒言
 当研究論文は、昨今大分知れ渡った『百済人祢軍墓誌の「日本」』に関して、碑文を逐一吟味するという地味な議論で先駆けし、隅々まで論拠を明らかにし、後続論者が一歩一歩追随できたのは見事と思います。

 毎号格調高い記事がひしめく当誌の巻頭記事に相応しい堂々たる論文と受け止めます。

*経緯
 本件経緯は、先ず、中国吉林大学王連龍氏の研究論文をもとにした朝日新聞記事で日本国号の新史料の発見が報じられました(2011年10月23日)

 東野氏が戒めても、碑文資料から「目に付く」、つまり、安直な結論に飛びつき、着実な資料批判がなおざりになる「軽率」は、(日本)古代史学の通例/通弊ですが、当論文の堅実さは、大変貴重な少数派の美点です。

*論証
 東野氏は、本件の初出論文である、王氏の研究論文を熟読し、碑文に「日本」を認めた王氏の判断を尊重した上で、
 碑文を国号「日本」の使用例と見るのは早計です。文脈から見て、「日本」は詩的字句で、現実の国名とは考えられません。 
 『「日本」は、漢魏代の遼東、楽浪、帯方の三郡領域、後の、高句麗、百済、新羅の三国領域では、東方、日之出の場所として用いられていて、必ずしも、後世の「日本」と同義ではありません。碑文の「日本」云々は、むしろ、百済遺民の逃亡と見られます。
と、細かく押さえていて、それぞれ、妥当と思われます。

 とかく、国粋的視点からのみ判断して、丹念な論証が無視され、以上の論証が等閑にされていますが、科学的な見方で、全て妥当な論証と見られます。

*ささやかな批判
 当論文で同意できないのは、国名抜きの日本列島として、「倭国」と表記していることです。(碑文とは関係無い東野氏の地の文です)

 同時代正史舊唐書も、本紀などで、体裁上二字名とせざるを得ない時を除いて「倭」と呼んでいて、三国志、後漢書を継承しています。また、「日本国」とも書いていないのは、百済国、新羅国と書かないのと同様です。

 「倭」の実態については、ここでは論じません。

*ささやかな異論
 東野氏は「于時」を先触れと見て、「日本余噍、拠扶桑以逋誅」とこれに続く「風谷遣甿、負盤桃而阻固」を四字句+六字句構成の対句と捉え、まことに妥当な構文解析と思います。

 一方、当ブログ筆者は、「于時日本余噍、拠扶桑以逋誅」と六字句+六字句と読めるし、それぞれ、三字句+三字句で揃っているのではないか、と見解が異なります。本碑文は、「于時日 本余噍、拠扶桑 以逋誅」と読み、国号にしろ詩的字句にしろ「日本」と書いてないとするのが異説の壺であり、無謀かも知れないが旗揚げしているのです。

 ちなみに、「本余噍」は、「本藩」すなわち「百済」の余噍、つまり、「百済」残党です。従って、当碑文は「日本」国号の初出資料ではないと見るのです。これは、東野氏の説くところに整合していると思います。

 但し、この異論を認めると、墓碑碑文発表以来の「日本」論議が空騒ぎになってしまうので、中々認められることはないものと思っています。

                               以上

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