新・私の本棚 番外 毎日新聞「今どきの歴史」 古代史談義の曲芸 1/2
私の見立て★★★★☆ 必読 2019/01/23 2021/12/22
*総評
題材は、毎日新聞夕刊文化面の月一の歴史コラムです。
素人目に「纏向マニアに荷担している」と見える毎日新聞に、三世紀に中央政権確立を見る「畿内説」に、堂々と批判を浴びせる論客、倉本一宏氏(敬称略)の論考が、丁寧に引用紹介されているのは貴重です。老骨には、行間から纏向マニアの迫力と新聞記者の使命感の相克に悩む担当記者の苦労が垣間見られるようにも感じられます。
*構成の不備
見出しに謳った倉本一宏氏の論考の紹介の筈が、担当記者の私見が前触れ、露払いしていて、何とも稚拙です。どこが、どうして不出来なのか、以下、当ブログの芸風に沿って前説を丁寧に批判します。なお、当記事は、毎日新聞夕刊文化面記事で、同社サイトに掲示されています。
*担当記者批判
まずは、やり玉に挙げる段落の前半を引用します。
実際、纒向遺跡は普通の集落遺跡とは違う。3世紀初めから約100年続くとされ、「魏志倭人伝」によれば女王卑弥呼はかなりの高齢で248年ごろに死去したので時代が合う。遺跡は大型建物や運河のような大規模な水路をもち、九州から関東まで各地の土器が多数出土した。最初の大型前方後円墳である箸墓(はしはか)もあり、ここが全国に分布する前方後円墳の核心部であることも間違いない。初期王権の王都とみる議論に説得力がある。
この部分に続く段落後半も、客観的な指摘か、倉本氏の指摘かあやふやですが、どうも記者の私見のようです。ここは、(専門家でないと思われる)担当記者の素人考えを披瀝する場なのでしょうか。
敬意の表明として率直に批判しますので、何かのご参考になれば幸いです。
実際、纒向遺跡は普通の集落遺跡とは違う。
「実際」と言うものの何が「実際」なのか。書かない方が良い「冗語」です。「虚辞」は避けたいものです。
「普通」も意味不明で、他の遺跡「集落」は、素人目には個性豊かであり、しかも、互いに知り合うことのできない時代なので、簡単に「普通」(広く通用している)と言えないはずです。記者は、考古学所見全般に精通していると、貴重な紙面を消費して自慢しているのでしょうか。
以上は、「纏向マニアには当然」としても、一般読者には意味不明ですから、全国紙記事として不手際です。相違点を例示した上で、無類、異例、独特、独創などと、手軽に言えば済むことです。
3世紀初めから約100年続くとされ、「魏志倭人伝」によれば女王卑弥呼はかなりの高齢で248年ごろに死去したので時代が合う。
主語省略ですが、「遺跡」が百年「続く」はけったいで、集落が「続いた」のでしょう。虚辞を削れば、誤解を招く主語抜きは避けられたはずです。
続いて、「魏志倭人伝によれば」と言うものの、纏向マニアが、史料に明記された年代に合うように遺跡の年代比定を調整したのであるから、「時代が合う」のはむしろ当然で、素人目にも、本末転倒のご都合主義です。記者には、纏向マニアの熱気に巻き込まれず、提灯持ちにならず、ジャーナリストの本分である客観的な批判精神を保つことが求められると考えます。
ついでながら、女王高齢は単なる一説(素人くさい浅慮)で、「倭人伝にそのようなことが書かれている」と賢しらに言い立てるのは、いわば、素人の浅知恵です。「顔を洗って、出直しなはれ」である。
しかも、文全体の趣旨からいうと、女王の亡くなった西暦想定年を書けば、特に突っ込みが入らずに済むのに、軽率に浅知恵を書き付けるのは、信用を無くすだけであり、つまり、虚辞と言うより書かずもがなの冗語/児戯です。別に、締め切りに追われてないはずなのに、あたふたと字数を稼いで、戯文を書き飛ばすのは、場所柄を忘れた推敲不足でしょう。記者の修行不足が丸出しです。
未完
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