« 新・私の本棚 「邪馬台国」徹底論争第1巻言語、行程・里程編 9/11 | トップページ | 新・私の本棚 「邪馬台国」徹底論争第1巻言語、行程・里程編 11/11 »

2019年3月19日 (火)

新・私の本棚 「邪馬台国」徹底論争第1巻言語、行程・里程編 10/11

 新泉社 1992年6月刊 東方史学会/古田武彦編     2019/03/19

◎『三国志』も長里で理解できる 白崎 昭一郎
 氏の議論は、古田氏の魏晋朝短里説(曹魏短里)の提唱、及び、これを支える用例解釈に対する反論として、曹魏短里の瑕疵を攻撃していて、大半は、同意させられるものです。この辺りは、氏の意図に反して、むしろ限定的であり、古田氏の短里説の縁辺である「曹魏短里」の不備を示すものですから、核心である倭人伝短里説には、影響が及ばないのです。

 端的に言うと、古田氏の論議は、三国志の中でも、呉志、蜀志は対象外、魏志でも、後漢時、つまり、魏武曹操の時代も対象外、と言うものなので、三国志全体を一括して捉えた掲題は、要旨を外しているのです。

 そうした行き違いで、倭人伝里程論の核心である倭人伝短里が、十分に審議されないのは、古田氏の過失であり、ここでも「倭人伝が短里で書かれている」という点に対する有効な反論は見て取れないのです。

◎魏の侵略性を無視するわけにはいかない 奥田 尚
 題目を見て、『嫌魏』ヘイト論説かと思わせて、引いてしまいそうです。
・時代背景考察
 魏使来訪は遼東討伐の余燼ですが、景初二年末(実は景初三年正月)に逝去し明帝と諡された先帝曹叡を偲ぶ時期で、前門の狼、呉蜀は健在だったのです。たまたま、蜀が宰相の陣没に始まる内紛で逼塞していたから、短期決戦で、主力軍を公孫氏討伐に投入できただけであり、それ故、公孫氏勢力は、無残に撲滅されたのです。

 そうした状況を踏まえると、魏の「侵略性」が何を指すか意味不明ですが、急逝前の明帝も、突然玉座に担ぎ出された新帝曹芳も、突然の激変に動揺している重臣も、江南などへの侵攻によって大魏の威光を広げる意志はあっても、地の果ての蛮夷の領域を侵略することを求めていたと思えないのです。例えば、後に毋丘儉による討伐を受けたにしても、高句麗が魏の「侵略」に怯えていたとは思えません。

・遼東遠征の意義
 魏に東夷侵略の意図があれば、公孫政権を粛正したとしても、郡の軍備を温存して、烏丸、高句麗、韓国制圧の先兵としたはずですが、司馬氏の遠征は遼東制圧の一年限定であり、周辺掃討は、全く予定してなかったのです。
 史料では、凱旋後の司馬懿の処遇は、政権内昇格か、主戦場の西方蜀戦線が予定されていたと示唆されています。

・「侵略性」無き侵攻
 魏朝は、遼東公孫氏が王を名乗って自立した大逆に激高しただけです。遼東征討の大軍は、任務を果たした後、そそくさと帰還し、公孫氏が押さえつけていた諸勢力をほぼ放任したので、後の遼東、両郡の喪失は当然の帰結であり、物々しい「侵略性」など見えないのです。

・深謀遠慮
 因みに、少帝麾下の司馬懿の政権奪取構想として、危険な毋丘儉などを、いかにして蜂起させ、討滅することが課題だったと見られます。
 以上は、具体的な証拠など無く、古代史学界の好む先入見を論証無しに構成して、氏の無責任な放言と対峙させたものです。
 時代錯誤の「侵略性」など、無視してよいのです。
                              この項完

« 新・私の本棚 「邪馬台国」徹底論争第1巻言語、行程・里程編 9/11 | トップページ | 新・私の本棚 「邪馬台国」徹底論争第1巻言語、行程・里程編 11/11 »

新・私の本棚」カテゴリの記事

倭人伝道里行程について」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 新・私の本棚 「邪馬台国」徹底論争第1巻言語、行程・里程編 9/11 | トップページ | 新・私の本棚 「邪馬台国」徹底論争第1巻言語、行程・里程編 11/11 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ