今日の躓き石 名人戦共催 毎日 第一局観戦記の問題発言 「名人は最強ではない」
2019/05/23
今回の題材は、毎日新聞に掲載された将棋第77期名人戦第一局観戦記(4月28日朝刊掲載の第二回)であるが、名人戦開催中は、商売の邪魔をしないように手元に止めたもので、それ以外は、公開を遅らせた事情はない。
当観戦記の筆者は、かなり高級な立場にある方のようで、高みから対局者を見下ろす、不愉快な発言が時折見られて、味が悪い思いになることがあるのだが、今回は、特に度を過ごしていると思うのである。
今回の挑戦手合いは、棋界最高峰の名人に、上り調子、充実の挑戦者という触れ込みなのだが、いきなり、「軽いめまい」に襲われた観戦記者は、二回目にとんでもない発言を公開したのである。
「現時点の将棋界は豊島・渡辺の2強状態。佐藤は名人として、そこに割って入る使命があると思う。」
将棋に詳しい方ならご存じの通り、「渡辺」は、渡辺明であり、目下タイトルを二冠保持しているとは言え、昨年、最高のA級順位戦から陥落して、いわば凋落した身であり、主催紙の連日のA級順位戦紙面から姿を消していたのである。つまり、主催紙読者の意識から去っていた圏外棋士だったものを、観戦記で、どうしてこのように称揚するのか、突然、意外であって、意図が理解できないはずである。
当観戦記でも、第一回で、挑戦者の活躍の引き立て役として、挑戦者は「渡辺明王将とともに頭一つ抜け出した印象だ。」とされているだけで、降級していたB級1組からA級に復帰したばかり、などの背景は語られていない。
それだけの前触れで、ここでいきなり、挑戦者と並べて、実力最強と評され、現役名人は、他社主催戦での成績が今ひとつだという理由で、最強の地位に並んでいないのである。最高位を争う熱戦を期待している主催紙読者としては、大いに不満では無いか。
あるいは、これまでのA級順位戦観戦記で、その場にいない渡辺の活躍について、余談として触れたかも知れないが、当観戦記は、名人戦観戦記という格別の舞台であり、読者は、別に当観戦記者の愛読者ばかりではないのである。
ついでながら、目下、将棋名人戦は、毎日新聞社と朝日新聞社の共同主催であり、朝日新聞社としては、棋界最高峰の挑戦手合いとして担いでいるものが、実は、そうではないと、貶されていることになるのである。心穏やかで無いはずである。
もちろん、現役名人も、よその紙面での結果がもう一つで、大したことない、弱者だ、この際奮起して頑張れ、と冷水を浴びせられて、大変不満だったはずである。まして、名人としての使命をド素人から諭されるなど、問題外である。
当観戦記者が、別の媒体で、独立して戦評を書く立場なら、名人戦主催紙の権威を落としてでも、自身の人気取りをしても許されるかも知れないが、主催紙の観戦記を任されている「プロ」の文筆家であるから、この書き方は、随分軽率ではないかと思われる。
また、一読者としても、それぞれの熱戦を楽しみにしている対局に対して、主催紙自らが、開幕局早々にケチを付けている紙面を見て、大いに、失望したのである。冒頭に書いたように、本来、すかさず批判するところであったが、商売の邪魔をしないためにずらしたものである。結果論で手は入れていない。
今回の事例は、新米の勘違いというわけでもないから、当の観戦記者は、日頃から、高みにあって淡々と持論を披瀝しているのだろうが、読者は、そのようなご託宣など、見たくないのである。そう、これが最初の暴言ではないのである。
以上
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