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2019年9月20日 (金)

新・私の本棚 関尾史郎 三国志の考古学 「出土資料から見た..」 3/4

 東方書店 2019年6月初版        2019/09/20記

□木簡考
*木の世界
 これに対して、木簡は、山中で伐採した木材を、薄板に加工する必要があります。後世のように、鋸がない時代、丸木から薄板を作り出すのは難業です。
 森林伐採して得られた丸太から角柱を切り出すような製材工程は、鐇(ちょうな)のように木材表面をそぎ取る大物の鋼製工具であれば、さほどの難業ではありませんでしたし、実際に、社寺や邸閣などは、そのような製材工程で得られた角材を使用したのでしょう。ただし、これは木簡への序の口です。
 柱材のような木材を、木簡の木片のような薄板まで分割していくのは、極めて専門的な作業であり、数が取りにくかったはずです。薪割りのようにして、割り板とするにしても、竹を割るように手軽ではなく、また、一本一本木目の入り具合が違う木を、望む薄板状に割っていくのは、銕工具をもってしても、手間がかかる上に、技術的に難しかったのです。
 いや、屋根葺き用や羽目板用に板を仕上げる必要があったから、板作り大工仕事の技は発達していたと思われますが、ノコギリもカンナもないのですから、事務用木簡を大量生産するのは、大変な難事業だったのです。
 また、個々の木片の厚さ、幅、平坦さなど、寸法諸元の規制は困難だったはずです。結局手仕事で、枠などに当てはめて削りあげたのでしょう。
 大事なことですが、木材が柱などの構造材として使用されるなら、加工の手間は格段に少ない上に、高価な物とされるので大変割がいいのです。木間は、そのように高価に売れる材木を切り刻んで、大量の木くずと汗をまき散らして、その一部が木簡になるのですから、大変な歩留まりの悪さです。
 ということで、木簡は、竹簡と比して、取れ高が少量で、仕事としての分が悪かったのです。恐らく、木簡でなければならない用途があって、限定的に使用され、余った時に、可能な範囲で竹簡に併用されたのでしょう。
 ついでながらに言うと、木簡は、薄ければ割れやすく、厚手にせざるを得なかったと思われます。つまり、荷札や名誌のように、大振りで厚手の物にこそ木簡の意義があり、それこそ、どんどんけずり変えて転用できたのです。
*木簡多用の由来
 因みに、これも推定ですが、古代統一国家である秦は、周から継承した精緻な、つまり、厖大な規定類を、全国隈無く衆知、徹底するために、木簡文書を多用しましたが、おそらく、本来の秦の所領は竹林の乏しい乾燥地帯であり、鋼製工具を多用した木材加工技術は発達していましたが、竹材加工は、さほど普及してなかったものと見えます。もし、楚が統一政権の発祥地であれば、竹簡が多用されたものと思われます。

*木と竹の共存
 ということで、木簡は、幅広で、大まかなものが多く、竹簡は、細身で定寸、薄身のものが続々と見つかるのです。
 資源管理の見地で言うと、太古以来、延々と続いた森林伐採の結果、中原の山野から原初の森林が失われたようです。亜熱帯性気候の竹の群生地では、特に栽培しなくても、年々新竹が伸張し、延々と竹条生産が続けられたのです。
                             未完

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