新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 貳 随想篇 5/11
2019/10/27
*六日間「大海」一周 Around the Sea in Six Days
かくして、誤記を訂正した行程では、大海(カスピ海 The great sea or The major sea)は六日周回程度の広がりの塩湖(Salt lake)です。甘英が、目前の大海を書かず向こうの地中海を書くはずが無いのです。又、安息西界、つまり、小安息と條支の国境地帯から地中海に行くのは、陸上行程が数千里にのぼり、直ちに乗り付けるわけにはいかないのです。
言い漏らしたようですが、ここで言う「大海」は、カスピ海全体を言うのでなく、安息-條支の往来が頻繁であった「海南」つまり、南部を指すのであり、これは、当時の現地人の世界観と整合するので、筋が通って見えるのです。
*条支国記事開幕
以下は、未交際で注目の条支記事であり、定説で、其国は通称海西と書き出されているのは、誤改行のせいです。主語と誤解されていた「其国」は、是正された記事では「条支」が書き出し主語となります。これは、諸国伝書法の常道であり、凡そ、すべからく、そのように書いたものです。
誤釈を振りほどくと、条支は、安息の西のカスビ海西岸にあり、著名なアルメニア王国です。其国は、東西大国の狭間の緩衝地であり、両属であったため、安息国に従属的な姿勢を保っていたのです。今日まで、地域大国のアルメニア王国の中国名は不明でしたが、条支と解すれば整然とするのです。
なお、安息西界安徽城の実体は、条支安徽城であり、安息に対して、「貴国の西方国境の守り」と称したのです。そう理解すると、西戎伝の冒頭は条支の風俗、地理、産物について書いているのが、理解しやすくなります。
あるいは、甘英は、帰国の途次、烏丹城、遅散城に脚を伸ばしたのかも知れません。裏海は一周六日で、班超の裁可なしで当人裁量で出かけられたはずです。何しろ使命の一貫ですから、行かねばならないのです。
*禁制の内部告発
条支国は、かねて、(絹原産地)中国と直接交流したいと願っていたが安息から厳禁されているとか、安息は、仕入れに十倍の値を付けて巨利を博しているとか、安息が耳にすれば関係者が粛正される内部情報を語っていますが、これは、帰国途上、条支に立ち寄り取材したと見れば筋が通るのです。
漢帝国は、商売に無関心で読み過ごしたようですが、自国絹織物が西域諸国で十倍、安息国で十倍とするとローマの支払いの九十九%が、途中で仲介者に取られて、漢には一% (以下)しか届かないのです。膨大なローマ金貨が、絹の代金として東方に流出しても、中国でとんと見かけないのはそのためです。
*西戎伝の記述
さて、ということで、少し前に戻ります。
西域中道を踏破して安息国を前にして、新たな領域である西戎地域をどのように叙するかというと、まずは、史記、漢書の書いた、安息、条支の記事を踏まえて、両国の詳細事情を語るという手順になったはずです。流れで、既報の内容が出てきますが、ご了解いただきたいです。
*西域四国宣言 Just Four Countries, No More, No Less
実際は、まず、前世、西域中道の極まる地域に四ヵ国があると書いたとしていて、西戎伝では国数に増減はないと明言されていますから、新規に特筆すべき大国はなかったということです。しかし、現代解釈では、そこに大秦国なる五国目の紹介記事が長々とが書かれていると読み取っているのです。
すると、魚豢は国を数え損なったのでしょうか。それとも、五とある字を四と書き替えたとか、写本時に誤記したということでしょうか。以下、読み進めばわかるはずです。
未完
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