新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 貳 随想篇 1/11
2019/10/27
█随想の弁
ここに書きまとめたのは、従来、魏志東夷伝末尾に裴松之によって追加された魚豢魏略西戎伝(以下、西戎伝という)の解釈を余り見かけないので、自称「倭人伝」専攻論者が、信条に従い賢明に丁寧に読み解いたものです。
所記の目的は、倭人伝道里記事の用語、用字の同時代用例を確認するものであり、追加として「ローマとパルティア」の記録を求めたものです。
*資料篇紹介
西戎伝の関連部分を翻訳した資料篇を別記事としているので、詳しくはそちらを参照頂きたい。(筑摩書房三国志Ⅱの該当部分を参考にしました)
□魚豢編纂「魏略西戎伝」(西戎伝)とは (再掲)
魏略は、三国志とほぼ同時代に編纂された史書であり、三国を並記した三国志と異なり、魏朝一代史であり、四百年にわたる漢を継いだ正統政権、呉、蜀を、反逆者としているのです。魏略は、暫時帝室書庫の所蔵書籍として、厳格な写本継承が行われていましたが、魏朝の正統性への評価が低下するにつれ、書庫外に押しやられ、次第に散逸したようです。
因みに、西戎伝とあえて銘打ったのは、漢書西域伝で、漢との交流、西域都護への帰属が表明されている西域諸国の「伝」は、既に記録にとどめられているのに対して、ここでは、それより西、漢の威光の及んでいない蛮夷「西戎」諸国の国情を初めて天子に報告するとの意であり、それら新来諸国が、魏の威光に服すれば西域は西方に延びるという主旨と思われます。
*西戎伝の信頼性
一般論として、魏略佚文には信を置けないとの定評ですが、こと、西戎伝の評価は大変高いのです。裴松之が三国志に付注した劉宋時代、厳重に写本管理された魏略善本を定本とし、写本引用は、裴松之が責任を持って管理した適正な引用であり、三国志原本編纂と遜色のない資料管理が高い信頼性との評価をもたらすからです。誤写や誤記は、数カ所の明白な誤記と後年加筆らしい数行の不審記事にとどまり、正確な史料と見られるのです。
因みに、二十世紀初頭にかけて中央アジア広域を探検したスウェン・ヘディン(スウェーデン)は、西戎伝を信頼すべき座右の書としたそうです。
*西戎伝の原点
さて、魏略の言う西戎、つまり、西域中道の果てる所から先の世界に進み、前世の西域伝の所記に加えた新参諸国談義は、本来、史記、漢書に明記されていなかった条支、安息から開始するはずです。ところが、ぱっと見、正体不明の「海西」の記事で開始するようで、前世の記録の確認と是正を旨としている魚豢魏略にして見ると不用意と思えるのです。
□誤釈の始まり Mistaken for Granted
海西とはどんな国か問い直すと、句点本が、誤解の始点と見えてきます。
大秦國一號犁靬在安息條支西大海之西
句点なしで原文をたどると、大秦国は「安息條支の西大海の西」となりますが、安息条支とは、安息と条支のまとめでしょうか。初出の大秦国の所在を明確にするという意味では、安息と条支を並べて起用するのは不適当です。
*出直した読解
当方は、一介の素人ですので、ここで読解に躓き椅子に座り直して、一から出直して読みなおしたのです。いえ、何度も出直したのです。
自由な素人の強みと自慢したいところです。
未完
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