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2019年10月27日 (日)

新・私の本棚 「魏略西戎伝」条支大秦の新解釈 貳 随想篇  6/11

                             2019/10/27
*魚豢の前世批判 Sour Criticism
 続いて、魚豢は、前世の記録に批判の筆を加え、安息国を大安息と見て、それが史記、漢書の視点と異なると感じ取れます。安息国は、西のメソポタミア地域まで領分なので、その西は地中海です。条支がその西と言うなら、そこは海中です。
 この難題を機敏に解決する動きが、今日も全世界で続いているのです。どこかで聞いた気がするかも知れませんが、それは耳鳴りの空耳ですので、気にとめないでください。「まぼろしの大秦国」も同様です。

*大秦談義 A Surprise Attack
 誤釈の端緒は、唐突に「大秦」は、と書いた文にあります。「新規国はない」と宣言した口の下から、新顔の大秦記事を書き出すのは、不意打ち、つまり、予告違反です。
 甘英が新参の「大秦」の記事を書くとしたら、前世記事との重複を避けつつ、まず安息、続いて条支を書き、そのあと、段落を改めて「大秦」は、と書くものです。
 各史書の各国伝は、文書構成として妥当ですから、後漢書西域伝の母体となるべき「西戎伝」も、本来そう構想されて書き出されたはずです。

□大秦国所在地論 The Disenchanted City at World's End
 大秦別名の莉軒(黎軒、犁靬、犁鞬)は、史記記事の安息国貢献特産物の産地であり、特産として提示したから、莉軒は、国内ないしは近傍地名なのです。つまり、大秦は小安息の国内、ないしは、ごく近隣なのです。
 いや、史記大宛伝では、武帝の西域遣使の初期段階で、奄蔡、莉軒と並記した上で、小安息の北、恐らくアラル海付近の行国、つまり、季節的な移動も含め、移住を前提としていた小国として紹介され、漢との交流が示唆されているので、漢は莉軒の大安息内部への移住を把握していたものと思われます。
 西域諸国の変遷に通じていた白鳥庫吉氏は、行国の国ぐるみの移住は、著名な月氏の例以外にもあり、別に珍しくないと明言しているので、後漢甘英の西域探査時は、移住が完了していたのでしょう。

 と言う事で、当記事は、魏略「西戎伝」の大秦、往年の犁靬は、大安息の一地方という意見です。西戎伝には大秦の多彩な産物が列挙されていますが、乳香のようなアラビア半島南方の産物を除けば西方産物は少なく、その所在地は、安息、條支両国の近傍、安息帝国の中央部でカスビ海南方のメディア国と思われます。

*憶測の「中国」「メディア」論 The Country in between, Media
 道草の大秦由来談義で、以下の成り行きを組み立ててみました。

 元々の「莉軒」等は、現地名の当て字ですが、国名を二字佳名で西域都護に登記する時に、推定所在地域が「メディア」(小国名)、意味として「中国」、つまり、大帝国の東西の中程にある国と云う所から模索したようです。

 と言うものの、そのまま「中国」では僭越・不遜なので、古来西域で中国の代名詞とされていた「秦」の派生で「大秦」の二字国名を名乗ったのかと思われるのです。西方ローマは漢字の「秦」を知るはずがないのです。

■甘英弁護の試み A Lone Defender
 さて、本論である甘英弁護となれば、当人の素性を明らかにしないといけないのですが、資料がないので班超を語るしかありません。

 甘英は、班超の副官で、安息条支の探査という重大な任務を命じられましたから、班超のお眼鏡にかなった人材であり、それまで、班超の指導を受けて育成され昇任した人物ですから、班超を知れば、甘英を知るのです。

*班超小伝
 班超は、文筆家として育ったようです。兄班固は、父が史記に続く史書を私撰していたのを継いで正史漢書をものにした大家ですが、最初から史官として官撰史書として取り組んだのではありません。史記を包含する漢代史を本山すべきだという使命感から私撰に着手し、禁制に触れたとして投獄されたのです。

 後漢当時、私撰史書を編纂するのは重罪だったので、班固は命を落とすところでしたが、班超が皇帝に命がけで弁明して、班固の私撰は公認され、官撰史書、つまり漢書の編纂に取り組んだとされています。

                               未完

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