今日の躓き石 無責任な新発明紹介 「全固体リチウムイオン電池」は永久運動機関の夢想か
2019/12/30
今回の題材は、JBPress (日本ビジネスプレス)サイトの記事である。
全固体リチウムイオン電池はなぜ凄いか?液体→固体で変わる使途・耐性・充電時間
2019.12.30(月)伊東 乾
この記事は、ファンタジーとしては、そこそこの出来かもしれないが、大事な点が欠けているので、科学解説としては、落第のように思う。
いわゆる新発明は、最初に正しく自己紹介しなければならない。
まずは、従来技術の紹介と欠点、問題点の提示である。
この点に関しては、そこそこ書けているように思うが、一番肝心な、電池の動作理論がちゃんと書けていないので、なぜ、従来のリチウムイオン電池が高く評価され、今、その欠点が問題化したか、理論的な解明ができていないのである。何しろ、筆者は「乾電池の内部が、文字通り全固体だと思っている一般人」を相手にしているのだから、そんな人にもわかるような丁寧な説明が必要ではないか。
分からん奴は、これを読めという指導もないのである。
次に肝心なのは、従来不可欠だと考えられていた電解液によるイオン移動を廃止して、全固体にしても電池として動作する理屈の解明である。要は、知られている物理・化学の法則で不可能とされていたことが可能だというのだから、理論的な裏付けが必要なのである。
少なくとも、NHKの「サイエンスZERO」では、その理論的な裏付けの部分で、明確な説明無しにごまかしていて、単なるホラ話と見なされる原因になっているのである。
当該番組では、電気自動車競技を紹介して、「欠点と問題点」を明示していたから、視聴者に対する背景説明は済んだ上での登場であったが、素人視点で視聴者の疑問を代弁してくれている(抜群に賢い)MCが、「固体の中では、物質の移動ができないのに、なぜイオンは移動できるのですか」と発明の核心に関してズバリと質問したのに対して、正面から答えずに答えをはぐらかしたのは疑惑を深めているし、全体として、長年の膨大な実験による試行錯誤の労苦を語るだけで、明解な理論的説明を怠っていたことから、そう思わされるのである。
第三者に説明したら、当然、SFにある壁抜けではないのかと質問されると予想されるから、全国の視聴者にわかる説明を用意せずに番組に登場できないと思うのだが、即答も何もできなかったと言うことは、ひょっとして、これまで、みんなが訊くのをはばかっていて、MCが訊くまで誰も訊くべきことを訊かなかったのだろうか。それだと、NHKの番組作りは、出たとこ勝負のやっつけで、随分杜撰なのだと思うものである。いや、これは、当記事筆者への批判ではない。陳謝。
筆者は、発明者に心服しているようだが、発明者ができなかった理論的解明は、どうやって自分なりに理解したのだろうか。当記事に書かれているようなおちゃらけでは、説明にも何にもなっていないのだが、筆者がそう理解しているとしたらしょうがない。別の筆者を起用するべきだろう。是非、無批判な受け売りと言われないように、丁寧に、手抜きせずに、素人にもわかるように説明いただきたいものである。でないと、実行不可能な夢想を、受け売りしていると見なされるのである。いや、受け売りにしては、当発明の発明者はどこの誰なのか、詳しい説明はどこで読めるのか、何も説明がないから、単なる記事筆者の夢物語と見られるのである。
周知のように、発明の特許を取りたければ、動作原理を提示する必要があるのである。できなければ、巷に溢れる永久運動機関の類いの「発明」と見なされるのである。
以上