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2019年12月20日 (金)

新・私の本棚 「魏略西戎伝」にみる魏の西域経営と范曄後漢書誤謬 補充

                            2019/12/20 

□はじめに
 引き続き、後漢書西域伝の信頼性について、考察しています。

*晋書四夷伝概観
 曹魏を継いだ晋朝は、当然、蜀漢の支配を振り払った西域の支配回復を図ったのですが、その事績と言うか実績は、まことにまばらなものです。
 取り敢えず、晋書四夷伝の目録を収録しましたが、西戎各国の記事は、新来で紹介の必要な吐谷渾の記事が豊富であるのに対し、既知の諸国は、後漢書までの記事の頭書を再録した後に、晋朝期の僅かな入貢記事などを引用しています。

晉書 卷九十七 列傳第六十七 四夷傳目录
1 東夷  1.1 夫餘國 1.2 三韓 1.3 肅慎氏 1.4 倭人 1.5 裨離
2 西戎  2.1 吐谷渾 2.2 焉耆國 2.3 龜茲國 2.4 大宛國 2.5 康居國 2.6 大秦國
3 南蠻  3.1 林邑 3.2 扶南
4 北狄  4.1 匈奴      5 史評

 晋書は、南遷後の記事を含めて、百三十巻に及んでいますが、西戎記事の西晋代記事は、端的に言えば貧弱で、これは、当該王朝が徳に欠けていたことの表明となっています。ありのままに書けば、こうなるのです。

*大秦國伝概評
 大秦國一名犁鞬,在西海之西,其地東西南北各數千里。有城邑,其城周回百餘里。屋宇皆以珊瑚爲棁栭,琉璃爲牆壁,水精爲柱礎。其王有五宮,其宮相去各十里,每旦于一宮聽事,終而復始。若國有災異,輒更立賢人,放其舊王,被放者亦不敢怨。有官曹簿領,而文字習胡,亦有白蓋小車、旌旗之屬,及郵驛制置,一如中州。其人長大,貌類中國人而胡服。其土多出金玉寶物、明珠、大貝,有夜光璧、駭雞犀及火浣布,又能刺金縷繡及積錦縷罽。以金銀爲錢,銀錢十當金錢之一。安息、天竺人與之交市於海中,其利百倍。鄰國使到者,輒廩以金錢。途經大海,海水鹹苦不可食,商客往來皆齎三歲糧,是以至者稀少。漢時都護班超遣掾甘英使其國,入海,船人曰:「海中有思慕之物,往者莫不悲懷。若漢使不戀父母妻子者,可入。」英不能渡。武帝太康中,其王遣使貢獻。

 概して後漢書西域伝の略載ですが、大秦風俗、産物と安息、天竺との交易を書いた後、突如、到達至難という「笵曄創作」が付加され、末尾に、西晋武帝の太康年間に,大秦国王の使節が洛陽に着いて貢献したと記しています。

 「商人達が、大秦は、海上往来に挙(こぞ)って三年分の食料を積むと風聞を伝える地の果てで、漢代四百年を通じ指折りの勇猛な西域武人である甘英が、長期の船旅と聞いて逃げ出した」という范曄創作の地から初めての使節が来たのは、かの偉大な漢朝が、遂になし得なかった画期的功績ですが、つまり、引用元である晋朝の日常記録に特記事項がなかったのは、実際は、単に数ある西域一小国の来訪だったのでしょう。何しろ、ここには、西域伝でありながら、かの魏朝金印大月氏国も、安息国/波斯国も登場しないのです。

 そうそう、西晋以降の魏書(北魏)、周書(北周)、隋書の潤沢な西域記事が、編者の手元に届いていたのです。ご参考まで。

*春秋筆法再考
 春秋の筆法でいうと、晋書は、大秦国来貢事績を書き飛ばすことによって、後漢書記事がほら話だったと書き残していると見ることもできます。
 硬骨漢であった魚豢であれば、容赦なく前世の謬と書くところですが、唐代史官は、後漢以来承継された文献をあからさまに誹(そし)ることはできず、まして、正史記録を改竄することはできなかったのです。それが、隋唐代以降の史官の常識というものです。

                                以上

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