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2019年12月 1日 (日)

今日の躓き石 毎日新聞の一大虚報 「漢字のルーツ」解明談 1/2

                           2019/12/01
漢字のルーツ、金文は「筆文字」か 京都の美術館など、鋳造技法解明

 *私の見立て ★☆☆☆☆ 錯誤が大半の「虚報」

*遅筆の弁
 それにしても、毎日2019年11月25日夕刊の「漢字のルーツ」には、二重の意味で恐れ入りました。それぞれ、少々念を入れて指摘することになったので、日数がかかったものです。(「泉屋博古館」、「芦屋釜の里」発表と推定)

*「ルーツ」の悪用
 このカタカナ言葉の出典は、アフリカ地域社会、つまり、主権国家の担い手であった誇り高い男性が、大勢の同胞とともに、欧州奴隷商人に無法に拉致されて、アメリカ南部で蛮人異教徒奴隷として、終生、そして、子孫に至るまで、苦役に囚われたという忌しい物語です。

 それは、大航海時代のもたらした欧州先進国の罪悪を暴き、合わせて、当時新興国家であったアメリカの経済発展を支えた奴隷制度への非難も込めています。しかし、日本メディアの扱いは、そうした「拉致」に始まる苦々しい告発には無頓着で祖先捜しの要素だけがもてはやされているようです。

 今回の記事は、原典比喩からみると、中国文化の根幹である漢字は、異国から略奪されたものと告発しているように見えます。軽率な原資料用語の引き写しとしても、天下の毎日新聞なら大胆な欧米に対する弾劾となるのです。普通に「源流」と言えば、そのような忌まわしい連想は生じないのです。

*「漢字のルーツ」
 後段は、良くある新説を「十分な検証」なしに、こうすればできるという一例の「実証」だけで、表沙汰にしたように見えます。学術発表は、学会内で、追試、反駁応酬の手順で、重大な試錬を経て公表すべきと思います。また、今回のような取材の歪曲から起こる難詰を避けるためには、発表者自身が責任を持つ「発表資料」(レリース)を配布すべきものと思うものです。是非是非、古代史関係者の認識を改めてほしいものです。

 担当記者は、「漢字」の自己流解釈に基づいて、漢字文化の(いかがわしい)源流を探り当てたと言いたいようですが、浅薄な誤解でしょう。あくまで、今日漢字の「書」としての側面に限定すれば、楷書、行書に代表される書体の起こりが筆文字であることは、ほぼ異論は無いものと思います。

 今回の発表は、金文文字は、別世界から掠奪・拉致したものではなく、中原に於いて、青銅器への文字書き込みの技法として筆文字が創出されたと言うようですが、そのような仮説は、実証不可能のように思います。一つには、そのような決め込みは、金文創生期まで、金属針で引っ掻く金釘流の甲骨文字しかなかったという先入観、と言うか、認識不足、勉強不足の大間違いに災いされているようです。

 しかし、少し考えればわかるように、当時、広大な領土を有する中原国家が成立し、封建諸公を統治していた以上、国家制度の規定、文書交信、戸籍、財政管理、諸公との締盟など、厖大な文字の書き出しが行われていたはずであり、記録媒体が、亀甲のように不朽のものでなく、また、亀甲のように地下深く埋蔵されなかったために、今日に残存してないだけと思われます。まだ、竹簡、木簡の多用は始まっていなかったかわかりませんが、かたや、筆の工夫は始まっていたと見るのが、普通の考え方と見るべきではないでしょうか。

 つまり、筋のよい考え方としては、金文筆文字の創始は、当時、世に行われていた筆文字を、「金」、つまり、青銅鋳物の表面に適確に再現する手法が、王室の門外不出の秘術として開発されたということのように思うのです。

 と言うものの、研究発表の事実報道部分を読むと、一つの手法で、実現可能であるということが証されただけであり、実際にそうであったかどうかは、別儀ですし、また、その手法の創始の際に、筆文字が創案されたという証左ではないように思えます。多少の常識が働けば、そのように考えるはずです。

                                   未完

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