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2020年4月17日 (金)

新・私の本棚 中島 信文 「東洋史が語る真実...」 再訪    2/3

*新世界幾何学
 この新世界は、幅と奥行きがある方形と見え、この方形世界を形容するのに、当時の学門教養を示す、今日言う「幾何学」分野の書籍では、方形の幅方向を「広」と言い、奥行きを「従」と言います。従は、縦と同義ですが、今日言う「幾何学」では、「従」と言うのです。つまり、幾何学用語を地理記事に適用して、郡を発して倭に至る一筋道を予告したと見るのです。

*「循海岸」
 「循海岸」の「循」は「従」とほぼ同義ですが、「従海岸」とすると先行する「従郡至倭」と「従」が重複するのを回避して「循」としたと見ます。

*循海岸「水行」
 先に述べたように、倭人伝において「海岸」は、冒頭に言う「大海」、つまり、塩水湖の岸の「津」(しん)、渡船場であり、そこから前方の洲島の津に向かい沖に出る渡船行程を「水行」と呼ぶと予告しているのです。

*中原標準の古典観「水行」
 中島氏の所説にあるように、古典観「水行」は河川行であり、中原人の意識に無い海洋行ではありません。

 恐らく漢代に大成され、後世「唐六典」に収録された全国運輸制度では、「水行」は、帆走貨物船を河川に浮かべ、人馬を労せず長距離輸送を行うことをいい、それぞれの水系において、日々の規準行程と規準運賃が定義されています。

*唐六典の意義
 案ずるに「唐六典」の規定は、各地で徴収した穀物や財貨の帝国拠点への収納や専売品の「塩」や「鉄」の運送に供用する統一規準であり、道里行程記事が定める標準里数や日数とは目的が異なるのです。

 中原での郡国との官道を使用した連絡を規定する道里行程規定には、陸上の街道を行く「陸行」しかなく、河川を行く「水行」は本来ないのです。

 つまり、本来、行程記事や所要日程記事に「陸行」は書かないのです。

*倭人伝独自の水行行程の予告
 しかしながら、倭人伝冒頭に明記したように、倭人は大海の向こうの山島に在るので、そこに到るには大海を渡る行程が不可欠です。

 陳寿は、熟慮のあげく、渡船で海上を行く行程を、他に妥当な書法が存在しないから余儀なく、「水行」としたのであり、「水行」の特例使用を予告したからこそ、後に「水行」が登場しても倭人伝に限り無法とされないのです。

*無謀な沿岸航行 余談
 世上「循海岸水行」に関し迷解釈が出回っていますが、海岸沿いの船舶航行などは存在し得ないのです。そもそも、海岸沿いは、岩礁、浅瀬、砂州など、致命的な障害が散在しているので、船舶は、これを避けるため、港を出たら、忽ち沖合の安全水域に出るから、海岸沿いの航行などしないのです。

 島嶼散在の多島海では、岩礁はほぼ必然であり、水先案内人無しに、一切航海できません。世上、多島海域に針路を描いた図を載せた解説書が見られますが、そのような図はいい加減なホラ話と見るのです。

 以上の事情を知る方は誤解していないはずですが、なぜか、ここで、在来の倭人伝解釈は、自船が転覆、.沈没しているのを自覚していないのです。

 海岸沿い航行行路は、直行街道と比して大迂回です。非効率的な漕ぎ船の乗り継ぎは迂遠の極みです。しかして、漕ぎ船の槽運は、徒労に近いのです。

 以上、批判対象は、中島氏が否定している世上の俗説です。念のため。

                                未完

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