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2020年5月14日 (木)

倭人伝随想 7 倭人伝談義/舊唐書倭国伝談義 1/1 補充版 舊唐書に「日本伝はない」

                            2018/12/06 補充 2020/05/14
□倭人「伝」談義
 伝は、史書の最小叙述単位であって、一人歩きできる体裁を持つものと考えますが、それは、叙述内容に由来するものと思われます。東夷伝倭人記事は、「倭人」の歴史、地理、風俗を語り、王都への行程を語り、近年の事象の経緯を語り、「倭人」 伝の形式を備えているように見えるのです。後世の素人読者の目にそう見えるという事は、陳寿の編纂方針は、「倭人伝」を確立していたと思えるのです。

 形式を備えた伝は、時には、他の伝に連なって列記され、時には、より広い範囲を語る伝の一項となっています。史書の構成を階梯と見るとき、その伝の扱い次第で階梯の上下が生じるのです。

 思うに、伝は、本来史書の最下部単位であり、条はその単位に満たない、挿話の扱いと思われます。しかし、倭人記事のように東夷伝の一部であっても、伝の体裁を保つものを条と見るのは、見当違いと思うのです。

 と言う事で、当ブログでは、倭人伝は、編纂者の意図として、伝の体裁を整えたと見て、僭越にも「倭人伝」と呼んでいるのです。

 さらに言うと、元々、倭人伝で格別の偉業を伝えられている卑彌呼も、伝が意図されたと思いたいのです。現状、その面影は掠れて伝の体裁を成さないので、勝手な思い入れに過ぎませんが、せめて、倭人伝が魏志掉尾を飾る役どころも評価して、「倭人伝」(紹凞本小見出し)と呼んでほしいのです。

 以上は、「倭人伝」を「魏志」独立記事と主張しただけですが、世上、聞きかじりで、『「倭人伝」という歴史書』など行きすぎた言い方があるのです。
 これを目にしたと思われる史学界権威が、(歴史書と誤解される)「伝」でなく、「条」とすべきであると苦言を呈しているのも当然と思われます。当方は、この至言は尊重するものの、やはり、倭人伝と呼びたいのです。

□舊唐書倭国伝談義
 「伝」談義で連想されるのは、唐時代記録の舊唐書(旧唐書)です。

 この正史には倭人伝後続の「倭国伝」があり、書き出しで歴代正史倭国記事に触れた後、唐代記事として唐に対する交通が順当に書かれています。これに対して、続く日本記事は、独立した伝としての「実」が整っていません。

 つまり、通常「日本伝」とされている記事は伝の要件を満たしていないので「倭国伝日本条」と見るべきものではないでしょうか。

 もっとも、維基文庫や中國哲學書電子化計劃は、刊本の巻頭見出や改行段落に従い、日本(伝)と認めているようです。いや、これらは、何れかの時点での原本改訂かも知れないので、必ずしも編者の意思を反映していない、かも知れませんが、それは、別儀としておきます。

 舊唐書を要約収録した太平御覧は、倭国と日本の記事を独立収録していますが、そのような文書形式に従ったものでしょう。ほぼ同時代の通典、唐会要での扱いも同様です。なお、新唐書は、倭国伝を置かず、「東夷伝日本」にまとめています。

 一方、岩波文庫「中国正史日本伝」は、倭国伝を「倭国日本伝」として日本記事を包括し、後続の国書刊行会書籍は「倭國伝」として、こちらも日本記事を包括し、どちらも「日本伝」を表示していませんが、これが日本史学界の舊唐書倭国伝に関する見解と思われます。

 世評では、舊唐書は二伝を併存させていて不都合としていますが、舊唐書に「日本伝はない」のであれば、そのような誤解の即断は正すべきと考えます。

参考資料 
 岩波文庫 「中国正史日本伝(2)」
  旧唐書倭国日本伝・宋史日本伝・元史日本伝
     石原道博編訳 1956年9月第一刷
 国書刊行会 「中国・朝鮮の史蹟における日本史料集成」正史之部㈠ 1975年
                                     この項完

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