私の本棚 大庭脩 親魏倭王 1/6
学生社 2001年9月 増訂初版 2018/05/26 補充再公開 2020/06/24
私の見立て ★★★★☆ 豊かな見識を湛えた好著
最初に見立てを入れるのは、以下、細かい異議を連ねていくのを非難と取られたら困るからである。
*暗愚な考古学者の文献曲読
著者が本書を書くに到った動機は、ある古代史シンポジウムで、考古学関係者が「魏帝の詔に書かれている鏡百枚は多すぎる」と軽薄に論じたのに対して、「史書として書かれている倭人伝の皇帝の詔すら、自説の邪魔になるなら書き替えて読むという安直な暴論に対して、異を唱えねばならない」というもの(義憤というべきか)であったそうである。
*法制史の物差し
著者は、中国法制史、つまり、各王朝の定めた法律とそれに従って運用されていた政府機構のあり方を研究するのであり、本書は、そうした専門家の目で、魏志倭人伝を読み解き、我々素人にも理解しやすい書物としたものである。
*学問の本分 大学の本分
凡そ大学の使命は、学問の道を究めることにあると思うが、併せて、学問の道を究めた、いわば学究の成果を広く一般大衆に伝えることにあると思うのである。わざわざ言うのは、時として、忘れ去られているからである。私学といえども同じ、まして、憲法に違反しながら、国庫補助を受けているのだから、謙虚であって欲しいと思うのである。尊敬され、国費の支援を受けているのは、学問の道に邁進していると広く認められているからである。
いや、この議論は、大学一般について論じているのであって、著者を非難しているのではないのは、言うまでもないと思う。
その意味で、本書はまことに有意義な書物である。
*不揃いな錯覚
冒頭、「卑弥呼と諸葛孔明」と題して、卑弥呼の時代が、三国志の蜀漢宰相諸葛孔明の時代に重なると説いている。国内古代史と中国史の関係が容易に浮かんでこないことを歎いている。おっしゃるとおりと思う。ただし、特に関係がないのだから、一般人の意識に上らないのは、むしろ当然である。
ところが、続いて直ちに『同じような錯覚が「魏志倭人伝」にもある』と書き出されているのは感心しない。今書いたばかりの一般的な認識に照らして、乱暴な飛躍としかとれない。
続いて、中国には「魏志倭人伝」という書物はない、と書かれているが、これが「錯覚」だと解すると、著者が自己否定していることになるので、おそらく、おっしゃりたいのは「魏志倭人伝」は国内の感覚であって、中国古代史と関係が成り立っていない錯覚である、と言うことだと思うが、錯覚を断じる論理が、混線して錯綜している上に不正確である。
著者ほどの識見の持ち主にして、不用意な行文であり、また、不用意な断言である。どんな読者を想定しているのか、一瞬、見て取れなくなる。
未完
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