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2020年6月 5日 (金)

陳壽(中国史)小論-19 (2013) 笵曄再考

                             2013/10/03  追記 2020/06/05

◯范曄度々
 以上書いたように、笵曄の史家としての資質をどう評価するかは別として、事情に通じた読者の目から見ると、范曄が、魏志倭人傳伝記事を潤色改訂して、倭人伝記事を逸脱した手口が見抜けるのです。しかし、なぜ後世史書が倭傳を記述する際に後漢書倭傳の記事を優越したのでしょうか。

 正史以外に権威ある歴史書として、唐時代に、杜佑が35年(CE766-801年)をかけて編纂した「通典」があります。(写真版が見つからず、頼りない原文を載せています)

 通典編纂期間は、唐王朝で言えば、大乱による打撃からの回復期でした。

 「安史の乱」(CE755-763年)は、首都長安が副都洛陽とともに反乱軍に制圧され、CE756年には皇帝一行が蜀に向けて逃亡し、反乱鎮圧後にようやく長安に復帰するような大乱でした。この異常な事態からの復興のめどが付き、壮大な史書を編纂できる程度まで回復したのがCE766年だったのでしょう。

 通典の「通」は、王朝変遷にこだわらず、時系列で歴史を記録するのであり、神話時代からつい先日である玄宗期までの超のつく長期間の記録です。

 当記事に関係する「通典倭傳」は、歴代正史の倭国関連記事をつなぎ合わせて一本の通史にしたものです。前漢時代から唐代に至る記事は、むしろ魏志倭人傳記事よりかなり短縮され、内容確認はさほどの手間ではありません。

 読んで気づくのは、通典倭傳は、後漢書倭傳を典拠としていると推定されるのです。なぜかというと、笵曄に始まった魏志倭人傳からの逸脱がここにも見えるのです。

 と言うことは、後漢書倭傳が魏志倭人傳を上書きするものでなければ、通典といえども、魏志倭人傳を乗り越える信頼性を持たないので、退けざるを得ないと言うことです。
*文献批判の前提
 さて、ここまでぐるっと回って、本小論の推定主題は維持されています。

 陳壽が編纂した三国志は、正史として注意深く写本継承された上で、継承された写本から注意深く写本版刻していると思われるので、正史としての信頼性は高いものである。
 注意深く写本継承されたものではないと推定される資料は、相対的に信頼性の低いものである。

 魏志倭人傳は、原情報を、ほぼ忠実に利用したと推定される同時代記事であり、史官である陳壽は信頼するに足ると推定される筆者であり、従って、魏志倭人傳記事は、総合的に判断して信ずるに足りると推定される記事です。

 これまで、魏志倭人傳記事に対する反対意見の証拠として提起されている資料の内、後年編纂された資料は、時を遡って魏志倭人傳を修正する根拠とはならないのです。

 同時代、ないしは、先行する可能性のある資料であっても、引用複写されたものや断片しか継承されていないものは、資料としての信頼性に欠けるので、魏志倭人傳を修正する根拠とはならないのです。

 よって、従来提起されている議論は、魏志倭人傳に推定されている信頼を覆すと推定するに足りないものと考えます。
*半終止
 ここまで、一介の素人の素人考えに、長々とおつきあいいただき感謝します。

 本小論では、倭人傳解釈について、導入部の資料尊重論の参考とした場合を除き、極力参考書籍の教えを請うことなく、魏志倭人傳記事と自分の経験と知識でこの小論を進めてきました。先賢の意見と重複していたとしたら、もの知らずの独り合点とご笑覧ください。

以上でとりあえず完結です。

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